君は試練か幸いか





ぐったりとした身体をベッドに預けて、チナはゆっくりと目を開き、心配そうに覗き込む新を見た。そして、睨みつける。
「だ、いじょうぶ、か・・・?」
掠れた声で、答えた。
「な、ように見える・・・?!」
新は頭を勢いよく下げた。
「ご、ごめん・・・!」
チナは睨みつけたまま、身体を動かしてみる。
いろんなところがだるくて、動きたくないけれど、気力で身体を起こした。
「謝るとこだけは、いつもはっきり言うよね・・・!」
ベッドの上に座ることも、チナは震えてしまう。
そのチナを心配しながら、新の手は、その身体に触れる直前で止まる。
触っていいかどうか、判断が付かないのだ。
チナは今更、と唇を尖らせる。
すでに、チナの身体で新が触れていないところなど、なかった。
「抱っこ」
チナは言って、新に手を伸ばす。
「え・・・」
困惑した新は、すぐにでも取りたい手を前に、躊躇した。チナはむっとしながらも、
「シャワー、浴びたい。このまま、寝れない」
意思を告げる。
言われれば、チナの身体はいろんなもので汚れている。新は申し訳なく思いながらも、その通りに抱き上げてユニットまで連れて行った。
湯船に下ろして、シャワーから暖かいお湯を出す。
へたり込んだチナは、大きく息を吐いた。
上気した顔で、そんなことをされて、新はまた、抑えられなくなりそうな自分に気付く。
「・・・ん、んん・・・もう」
「え?」
チナに睨みつけられて、新はそんな浅ましい考えがばれたのだろうか、と身体を硬直させた。しかし、チナが口にした台詞に、新はますます反応してしまった。
「中から・・・零れる・・・!も、すごい、出ちゃうよ・・・」
「・・・・・!!」
シャワーの音より小さな声なのに、新は全身で聞いてしまった。
上から落ちるシャワーのお湯を前から受け止めて、チナは湯船に持たれ、足を少し開く。その間に、自分の手を伸ばした。
「・・・これ、どうするの・・・?手で、掻き出すの・・・?」
困ったような声で、チナは自分の手元を見た。
新に、視線は敢えて向けなかった。
戸惑いながらも、震える指が、自分の奥に触れる。人差し指だけを、ゆっくりと埋めた。
「ん・・・っ」
ゆるくなってしまったそこは、それだけで中から雫を溢す。
「・・・・っは、ぁ・・・」
吐息を上げてしまうチナは、それでも指を深めた。
「あ、あぁ・・・っ」
自分の指が、知らずに新に見つけられた場所に触れてしまって、声が上がる。湯船の縁に、新の手が掛かる。
それが見えて、チナは新を見上げた。
それから、嗤った。
「だめ・・・!」
「え・・・っ」
「そこに、居て・・・」
吐息のような声に、その言葉に新は縛り付けられてしまう。
しかし、全身で、襲いたい気持ちも抑えられなくなっている。
そんな新を解っているだろうチナは、首を振った。
「だめ、ちゃんと、綺麗にしてから・・・っん、ぁっ」
中から溢れる感覚に、チナは身体を震わせる。
「・・・・っ、」
声にならない新の欲情が、チナにははっきり聴こえた。
咽が上下する音が、はっきりとシャワーより響いた。
「も、どれだけ、入れたの・・・?まだ・・・んんっ」
チナの視界には、隠しきれない新の雄が主張しているのが入る。しかし、チナはそれでも手を止めずに、新を牽制した。
「今、したら・・・絶対、も、させないから・・・っ」
苦しそうな声に、新は身体を震わせる。
拷問だった。
新にもはっきり解った。
これが、お仕置きなのだ。
「ゆび・・・っ」
「え・・・・?」
「も、これ以上・・・はいんない・・・ど、しよ・・・」
「ど・・・う、」
その言葉は、新を誘っているのか、ただの言葉か、新には区別できない。
いや、できるなら、自分の良いように取りたかったのだが、チナのさっきの牽制が自分を必死で押し留める。
「て、貸して・・・・っ」
「・・・・っ!」
「だめ、て、だけ・・・っはぁ・・・」
入ろうとした新に、チナは睨みつける。
濡れたその目の威力は、新にはかなりの効果だった。チナに手を取られて誘われるがままに、そこに触れる。
チナの手が、新の指を自分の代わりに入れる。
「奥・・・もっと、奥、入れて、出して・・・?」
新の指は、柔らかなそこに抵抗もなく入り、濡れた中で動く。
「あ、あぁ・・・っ」
首を仰け反らせて、チナはその動きに反応する。
「だめ、そこ・・・っ出す、だけ・・・や・・・!」
思わず、擦り上げた指にチナは首を振って抵抗する。
その指に絡んだ温もりと、チナの声に、新はもう限界だった。
「あの・・・」
震えた声で、チナにお願いしてみようとすると、チナは首を振った。
「だめ、綺麗に、してるんだから・・・っそこで、して・・・?」
「・・・・え?!」
聞こえた言葉を疑った。が、チナははっきりともう一度言った。
「そこで、したら・・・?指は、ちゃんと、僕を、綺麗に、するの・・・」
上気した顔で、言葉を区切りながらも、チナははっきりと言う。
「・・・・出来ないの?僕の中じゃないと・・・いけないの・・・?」
指だけが感じてるその温もりに、新は背筋が冷たくなった。
しかし、身体の熱は収まらない。
悪魔のような言葉と、天使のような顔に、新は全身に渦巻く欲望と葛藤した。

勝てない。

それが、結論だった。
これからも、新は試されてゆくことになる、と自分でその先を恐ろしく思いながらも、逃げ出せないことに、諦める。
所詮は、惚れたほうの負けなのだった。
自分のもう片方の手を自分に伸ばしながら、チナが微笑むのを見た。
今までで、一番の悪魔のような笑顔だった。


fin



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