そんな試練と幸いに





新は焦燥感に捕らわれていた。
あの勢いのまましてしまった日より、一度もしていない。
否、することは、していた。お互いが快楽を求めて、肌を重ねはする。
しかし、抱いていない。
チナの中に、触れていない。
あの日、言われるままにチナにして見せてしまった。チナも、湯船の中で身体を振るわせて新の指を銜えたまま達ってしまった。
その発される色香にまた新はどうにかなりそうだったが、「もう駄目」というチナに従っそのままぐったりとしたチナをベッドに寝かせて、そのまま朝を迎えた。
それ以来―――チナは自分から身体を求めてくれる。
新にはとても好都合だった。自分を押しにくく、そして自分の欲望のままに走れない新にとって、嬉しいことだ。
しかし、上にいるのは新ではない。チナが新を押し倒し、新の前を寛げそれに触れる。
新が戸惑ったのは無理もないが、チナは手を止めなかった。それどころか自らの口に銜えてみたりしていた。チナは、自分の手で自身を高める。それに新が手を伸ばすことを許さない。
新のを銜えて、自らを擦り上げて、まるでソープ嬢の行為のようだ。
新は初め、それにとても興奮した。しかし、頑なにそれを繰り返すチナに疑問を持つ。
「駄目、僕が、するの」
熱っぽく言われれば、新は何も出来ない。しかし、湧き上がってくる不安と疑問。
そして焦燥。

  ―――――チナは、抱かれるのが嫌だったのだろうか。

新はその思いに至って、また時間が経った。決断に時間がかかる。
けれど、今日こそはと決めた。
今日の新は、ちょっと違う――――つもりだ。





     *





ベッドを背に、チナと口付ける。そのまま、チナの手が新たに伸びてくるのを止めた。
チナの身体を抱えて、ベッドに組み敷く。その勢いに、チナの表情が驚いて固まった。
「・・・え?」
新は大きく深呼吸して、シャツの裾から手を差し込む。腰をなぞり上げられて、チナは息を詰めた。
「・・・・っ」
新は、その細い腰を、その身体を思い出していた。
――そうだ、こんなに、細かったのだ。
シャツを捲り上げて平たい胸に舌を這わせる。
「っつ、あ、らた・・っ」
チナの手が新の肩を持って止めようとするが、新に止めれる余裕などない。
硬くなった胸の突起を嘗めて、吸い上げる。その音が響いてチナが息を呑むのが解った。
荒くなった新の呼吸が身体を下に移動する。手が筋肉のない身体を確かめるように這い、ズボンをずらす。
「あ、や・・・っ」
チナの抵抗も虚しく、新はいつもチナがしているようにそれを口に含んだ。手と口を使って、すぐにチナを開放へと導く。
「あ、ああ・・っ」
苦しそうに、切なそうな声が部屋に響いて、チナはそのまま新の口に達ってしまった。
しばらくその脱力感に呆然としていたけれど、新がズボンと下着を一緒に下ろしてしまい、細い腰を開こうとした瞬間、上体を起こして止めた。
「駄目・・・!」
新は悲しそうな顔をするチナに、それ以上に悲しく情けない顔で訊いた。
「・・・なんで?」
「だって・・・!」
理由を言わずに困惑するチナに、新は燻っている焦燥感だけが多きくなる。
「抱きたい・・・すごく、」
チナは首を縦には振らず、
「駄目・・・! 僕も、するから・・・!」
「そんなの、しなくていい・・・このまま」
「いや! やめて!」
はっきりとした拒絶に、新の中の何かが切れた。
「・・・・」
チナにも解った。新の目が欲情に濡れて、怒りが見えたことに。
新は細い身体を反転させて腰だけを抱えた。
「あ、やぁっ・・・!」
双丘を割って舌を伸ばす。指以上の生き物のような感覚にチナは頭が真っ白になる。ベッドに顔を押し付けて、ただ首を振った。
「んっ、やだぁ・・・っ」
新はただ無言でその蕾を解して攻めるのに集中した。指を入れて中をなぞり、出し入れを繰り返してまた指を増やした。
「やあぁ・・・っ」
探るように指をバラバラに動かして、チナの一番反応する箇所を見つけれると、そこを攻めた。
「あ、あ! や、あ・・・!」
それから指を引き抜き、すでに立ち上がった自分自身をそこに当てた。
その触れた熱で、チナにも解る。それに耐えようと、必死で唇を噛んだ。
「ん・・・っ」
ゆっくりと、小さく抜き差しを繰り返しながらも新が奥まで入ってくる。一度全てを
入れてしまうと、新たは息を吐きながら身体を揺さぶった。
「ん・・・やあぁ・・・っ」
チナの前にも手を伸ばし、優しくそれを弄ぶ。
「あっあ・・・あぁっ・・・やぁっ」
チナの指で探り当てた箇所に擦り付けるように腰を動かして、新はチナの奥にそのまま放った。すぐにチナを握りこんでいた新の手も、チナのそれで汚れた。
「・・・っ、はぁ・・・」
新は息を吐いて、少し落ち着かせる。
その状態のまま、やっとチナの身体を見た。
細い肩が、震えている。ベッドに顔を押し付けたまま息を殺している。
「・・・・・!」
泣いているのだ。
新は全身の血が引いていくのが解った。自分の取った行動で、チナが泣いている。うろたえて首を巡らせて、そこでやっと繋がったままの身体を離した。
「・・・っ、」
チナの身体が震える。濡れた自身と糸を引くようなチナの蕾に、また駆り立てられそうになるが、必死で抑える。
「・・・ご、ごめん・・・」
言いなれた謝罪の言葉を吐く。チナの震えた声がベッドから聞こえた。
「・・・やだって、言ったのに・・・!」
それでも、新は我慢できなかった。どうしても抱きたかった。
新は心を決めた。身体を震わせて泣くチナに、嫌われても自分の想いを遂げたかった。
「僕も、するって言ったのに・・・やだって言ったのに」
「ごめん・・・でも、どうしても我慢出来なかった・・・チナ」
苦しそうに訊いた。
「・・・どうして、駄目なんだ・・・?」
初めてでも、前は受け入れてくれた。口でしてもらうのも凄く凄く気持ち良いのだけれど、受け入れてもらえないのはどうしても焦ってしまう。
―――やっぱり、嫌なのか・・・
新はため息を吐いた。
「・・・抱かれるの、嫌なのか・・・」
口と手だけでするセックス。チナがそれがいいと言えば、それに従うことになるかもしれない。チナがそれしか嫌だというなら、それに従う。それでも、この距離でいるのだ。
それ以上を求めてしまうのは仕方がないことだと思う。それを受け入れてもらえないなら、新は考えて、眉を顰めた。
今更、チナを手放せれるすことができるだろうか。
考えて、答えは直ぐに出た。「否」だ。しかし、自分の考えを押し付けることなどできない。
そんなことをして、好きでいてもらえる自信などない。
今だって、嫌われてしまったかもしれないのだ。チナに嫌われたら元も子も無い。しかし、欲望は抑えられない。
新独りで答えのない思考の中に入っていたが、チナの小さな声で現実に戻った。
「・・・だって、」
「・・・・・」
新はその続きを息を呑んで待った。
その事実は、新を地獄に突き落とすのかそれとも―――――
「よくわかんなくなっちゃうから・・・」
「・・・・え?」
「僕が僕じゃなくなるみたいで・・・新にぎゅってしてることしか出来なくなるし・・・」
「・・・・・・・」
「頭の中真っ白になっちゃって・・・何にも考えれなくなるし」
新は息を呑んで、チナより震える声を出した。
「・・・それって、嫌じゃ、ないって・・・こと?」
チナはベッドから顔を上げないまま、頷いた。その耳が赤い。
「・・・とっても・・・気持ち良いよ?」
新は身体が崩れるような息を吐いた。チナはその新に身体を起こして振り返り、
「僕だけ、気持ち良くなってもしょうがないでしょ?」
染めた頬で、濡れた目で新を見る。
「僕だって、新に気持ち良くなって欲しい」
新は下半身に意識が集中して、それを抑えるように前かがみに、ベッドに顔を押し付けた。
「・・・・なってる・・・!」
「え?」
チナが聞き返すと、身体中で欲情しているのを隠し切れない新は顔を上げて、
「もう、それだけでも達きそうだよ・・・!」
「え? なんで?」
「チナが! 可愛いから・・・! 後ろでやったって気持ち良いよ! だから抱きたいんだよ!」
新は言ってしまって、正直すぎる自分の声に引かれるかも、と少し後悔したが、チナは恥ずかしそうに俯いて、それから自分の内股に手を滑らせた。
「ほんと・・・? じゃぁ・・・する?」
片ひざを少し上げて、自ら開いてみせる。
「あ、違う・・・して?」
可愛く首を傾げて言われて、新がじっとしていることなど出来ない。
「あっああぁっ・・・!」
チナの足を抱えてすでに硬くなった自分を押し込んだ。新が濡らしたそこは、抵抗も無くまた新を飲み込んでゆく。
「あ、あぁっ・・・や、あら、たぁ・・・」
切なく啼いて、その身体は完全に誘って煽っている。
新は頭を抱えそうだった。
幸せの中に、絶頂にいるはずなのに、この与えられ続ける試練。
いつまで耐えられるのだろうか、と真剣に考えた。
しかし、今はこの目の前の幸いに埋もれることに集中した。

  またすぐ訪れるであろう試練のために―――――


fin



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