拍手8 ハチミツの日 だから〜&四葉



ハチミツの午前 1
「こんちはー」
「・・・あれ? 佐上くん、いらっしゃい」
「どーも深津さん、今日も綺麗だねー」
「・・・その挨拶、いい加減に止めない?」
「止めない。海ちゃんは?」
「今、ちょっとお使いに・・・暇な時間だからね」
「ふぅん?」
「カット? 僕がするの、久しぶりだね?」
「うん、最近自分でしてたけど、ちょっと丁寧にしてほしくって」
「え? どうしたの? なんかあったの?」
「・・・・別に、何にもないけど・・・あ、カラーリングね」
「はい。根元を染めるの? そのハチミツ色に?」
「ううん、黒に近いダークブラウン」
「・・・・どうしたの?」


ハチミツの午前 2
「どうもしないよーちょっと気分転換」
「どうもしなくて・・・僕、そんな色の佐上くん見るの初めてだよ」
「あー・・・俺も初めてかも」
「やっぱり、何かあった? 前に言ってた恋人さんと上手くいってないの?」
「・・・・・・べつに、そんなこと、言ってたっけ、俺」
「・・・佐上くん、鏡見てご覧よ、真っ赤だよ」
「もー深津さんうるさいっさっさとして!」
「はいはい、シャンプー台へどうぞ」
「深津さんこそ、最近どうなの。あのエリートリーマンみたいな恋人。俺、ああいうのタイプなんだけどなー」
「・・・佐上くん、そんなこと言って。本当は一途なのにね」
「・・・・・・・一途じゃないっ」
「違ったっけ? でも、好きになると佐上くん、結構解かるから」
「もーうるさいっ犬養さんのことなんかいいんだよっ」
「犬養さんって言うのか・・・どうぞ、愚痴くらいなら聞くよ」
「・・・深津さんって、なんで俺のことそんなに解かるの」
「佐上くんが素直だからじゃないかな?」


ハチミツの午前 3
「俺、別に素直じゃないよ・・・ただ、この前さぁ!!」
「はいはい?」
「もうなんか、すんっごく、むかついて!!」
「・・・何したの?」
「かくてーしんこく!! 一度もしたことないって言ったらすっごく怒って!!」
「・・・・・・したことがない?」
「ないよ! そんなのすることも知らなかったし!」
「・・・・・・今まで、どうしてたのかな?」
「どうもしてない」
「税金、請求とかこなかった? 自宅に連絡とか・・・」
「来ないよ。だって俺、住所こっちに移動してなかったし。この間、それが犬養さんにバレて」
「・・・弁護士さんだっけ?」
「そうだよ! 弁護士のくせに、税務士の資格とか会計士の資格とかがあるとかどうとかっ学力のない俺にはなんのことか全然わっかんないのに!」
「ああ・・・そうなんだ」


ハチミツの午前 4
「大体さ、何年も前の収入とか、それを何に使ったかとか、領収書なんて持ってるわけないじゃん?!」
「・・・・佐上くん、それで生活できてたんだね」
「出来るよ! 生きてくのにそれって必要?!」
「・・・・必要、かなぁ・・・? 一部には、」
「俺には全然必要じゃないっ」
「それで・・・ケンカしたんだ?」
「ケンカって言うか・・・良くわかんない書類にわかんないこといっぱい書いたけど」
「ふぅん? それで、どうして髪の色変えるの?」
「犬養さんが、俺のこと、不真面目みたいに言うから! 真面目なつもりないけど、言われたらなんかムカつくじゃん?!」
「・・・・それで、外見から・・・」
「俺にだって真面目にくらい出来るし!」
「・・・・そう、だね。佐上くん、仕事にはすごく真面目だから」
「でしょ?! 俺だって仕事は真面目だよ!」 「
じゃぁ・・・少し、カットもしていいかな? 黒髪が、似合うように」
「いいよ、深津さん、信用してるし」


ハチミツの午後 1
「―――それで、その頭なんですか・・・」
「うん、似合う?」
「似合う、と言うか・・・入ってこられた瞬間、誰かと思いましたよ」
「変?」
「変じゃないです、すごくおさな・・・いえ、凄くお似合いです。キナの顔は、黒髪も映えますね」
「ありがと、これで犬養さんをびっくりさせてやろーと思ってさ」
「・・・で、ここへ寄り道ですか? 真っ直ぐ帰らないとまた怒られるのでは?」
「怒られたって気にしない。俺は俺のしたいこと、するの。犬養さんにだって何も言われたくない」
「そう・・・ですか、でも、その頭を見れば――ますます惚れ直しそうですねぇ」
「え・・・・そ、そうかな?」
「ええ、その美容師さんは本当に、腕が良いんですね。キナの良いところがちゃんと出ています」
「うん、深津さんね、すっごく上手い。昔した、ちっちゃなショウで知り合ったんだけどさー綺麗だし、優しいし、腕は尊敬できるし、すっごく好き」
「・・・・珍しく、素直ですね」


ハチミツの午後 2
「俺はいっつも素直だ」
「・・・そうでしたか」
「そうだよ! って、あ、マスター、マスターも一度深津さんにカットしてもらう?」
「え? 僕ですか?」
「うん、その髪、適当に切ってるだろ?」
「・・・・ええ、実は」
「一回俺も、突付いてみたいんだけどさー、深津さんとマスター並べたら、面白そう」
「・・・・どういう面白さかは解かりませんが、キナを喜ばせる義務は僕にはないのでご遠慮します」
「えー! なんで!」
「なんでもなにも・・・ああ、そういえば、先日していた確定申告、ちゃんと出来たんですか?」
「・・・知らなーい、出来たんじゃねぇの? なんか犬養さんがしてた」
「キナ・・・キナのこと、なんですよ?」
「して下さいともしたい、とも言ってないし、俺」
「そもそも、住民票や税金を払っていなかったとは・・・僕も聞いた瞬間眩暈がしましたよ」
「なんで? みんなするものなんだ?」
「それこそ、義務なんですよ」


ハチミツの午後 3
「オトナってたいへーん・・・」
「・・・まるで自分が大人ではないような言い方ですね?」
「オトナだよ! 俺はもうオトナ! 25だし! あれしろとかこれするなとか! なんでいちいち言われなきゃならないんだよ?!」
「・・・相変わらずなんですね、弁護士さんも。それでキナは、首輪でも付けられたんですか?」
「これ以上干渉してきたら、絶交って言った」
「・・・・・・キナ、それは大人のすることでは・・・」
「だって!! 好き嫌いするなとかっちゃんと片付けろとかっ犬養さんいつから俺のお母さんになったんだっての」
「・・・・・・」
「友達と飲みに行くなとか、一人で出かけるなとか、何時までに帰れとかっ保護者かよ!」
「・・・今のキナと弁護士さんを並べたら、ますますそう見えるかもしれませんね・・・」
「なに?! マスター今なんてった?!」
「いえ・・・なんでも。怒ったらせっかく綺麗にされた髪型が台無しですよ」
「・・・・・・・・」
「キナが笑って、弁護士さんにお帰り、とかお疲れさま、とか・・・言ってあげたら、弁護士さん、何も言わなくなると思うんですが」
「・・・え? そうなの? てか、それ言うの? 俺が?」
「ええ、効果はあると思います」
「・・・・マスター、言ってんの?」
「・・・・・・秘密ですよ」
「・・・・ホント、オトナって信用できねぇ・・・」


ハチミツの夜 1
「お・・・おかえりなさい? 残業だったんだ? 遅かったね?」
「・・・・・・・・・・・」
「あ・・・えっと、お疲れ様? あと・・・あと、なんだっけ? あ、お風呂、入れてあるよ、ご飯は、まだだけど・・・」
「・・・・・キナ?」
「なに?」
「・・・・・どうした、その髪」
「え? ああ、今日美容院行った」
「・・・・・それで、どうして、その色なんだ?」
「だって、犬養さんが、俺のこと不真面目とか言うから!」
「俺が? いつそんな・・・」
「この前! なんかいっぱい難しい書類書かせたとき!」
「あれは・・・お前がするべきことをしていないから、言っただけだ。お前は基本的に真面目だろう」
「・・・・・え、そう?」
「それで黒髪か?」
「うん、真面目に見える?」
「・・・・真面目というか・・・犯罪者になった気分だ」
「は? どういう意味?」
「可愛くなった、と言う意味」
「・・・・・・・ッ」


ハチミツの夜 2 「いっ、犬養さんさあ! 絶対、タラシになってる!」
「なに?」
「なにそんなこと、ナチュラルに言っちゃってんの?! は・・・っ」
「恥ずかしくはない。お前の前では建て前がないだけだ」
「・・・・な、なに、なんで、頭撫でるの・・・っ」
「いや、お前の髪、柔らかいな」
「・・・・そう、かな。思いっきりカラーリングしてるから、痛んでると思うけど」
「そうか? ずっと、こうしていたいくらいだ」
「・・・・・・・・」
「キナ、頼むからこれくらいで赤くなるな」
「な・・・っさ、させてる、の、犬養さんじゃん・・・っ」
「さっきのお返しだ」
「さっき? の、なに?」
「お帰り、と言ったお前が――新婚ごっこでも始めたのかと」
「はぁ?! なっ、なに言ってんの?! あ、あれは、だって・・・っ」
「なんだ? 違うのか?」
「ち、ちが・・・ちが、ぅ、ない、よう、な・・・なくない、ような、」
「・・・日本語は、きちんと使え。で、俺は素直に答えて良いのか?」
「・・・素直って?」
「お前と一緒に風呂に入って――それからお前を食べたい」  

おまけのおまけでした。


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fin



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