拍手7 狼さんと子ヤギ ビーナス&四葉




「しんっじらんない! 立見のばかばかばかばかばかばかっ」
「ど・・・どうしました?」
手の中にくしゃくしゃになった写真を握り締めて、顔を紅潮させている菊菜ちゃん。
それに驚いたのは拍手の住人深津さん。
「た、立見が――立見が、こんな、ひどいこと・・・っ」
見る見るうちにその大きな目に涙が! 深津さんピンチ!
「ひ、ひどいこと? 何をされたんですか?」
「・・・・と、撮らないって、ゆったのに!」
悔しそうに涙を零すのをギリギリで我慢した菊菜ちゃん。
そっと開かれたのはくしゃくしゃになった写真を握った手。
そこに写っていたのは、真っ白なTシャツにコットンの短パン。
足はニーハイの真っ白なソックスでさらにその両手には肘から手の甲まであるふわふわのファー手袋。
極めつけにふわふわの髪の毛に乗せられたカチューシャから見える、二つの真っ白な耳。
「かわ・・・っ」
あっ! 深津さんそれは言っちゃ駄目! 思わず深津さんが口にするほど、写真の子ヤギ菊菜ちゃんは――可愛かったのでした。



「と、撮らないから、家の中だけだし誰も居ないからって・・・っ」
休日に、一日家から出ないその日に、その格好で居て欲しい、と言われた結果らしいですよ。
この写真はどう見ても隠し撮り。
うーん、立見くんいい仕事しますねー。
「大丈夫、可愛いですよ!」
いや深津さん、それってフォローになってないし!
「じゃあ深津さんがしてみて撮られたらどうしますか!」
「・・・・っ」
お、さすがに深津さんも困りました。 そう切り返されるとは。菊菜ちゃんもなかなか。
「もう立見とは絶交です!」
「え・・・っちょ、それは・・・っ」
早まるな、と言いたい深津さん。
ですが怒りに震えて涙を浮かべる菊菜ちゃんがあまりに可愛くて、その続きを言えません。



「は、恥ずかしかったのにっ18にもなって、着ぐるみとかっ」
「いえ・・・」
似合いすぎてて怖いです、とは深津さんも言えませんでした。
「と、撮らないって言うからしたのにー」
何やら、あの格好でしたのでしょうか。
深津さんは想像してしまったシチュエーションに笑顔を引きつらせて固まってしまいました。
菊菜ちゃん、犯罪スレスレ?
深津さんはクラッとなる頭を直して、
「えっと・・・その写真、デジカメですか? 現像はそれだけですか?」
とりあえず、嫌なものを抹消してしまっては、という提案ですね。
菊菜ちゃんは今気付いた、と言うように目をびっくりして大きく開きました。
涙と一緒に零れ落ちそうで思わず手を出してしまいそうです。
「・・・・・わ、わかんない・・・っ」
なるほど。 その一枚を見つけて、とりあえず走っていらした、と。
さてそんな立見くんは何をしてるんでしょう。 破局の危機ですよ。



「・・・・なんだそれ」
掌に納まる、小さな画面を見つめる立見くんを背後から覗き込んだのは深津さんのラバー航太郎さんです。
そして興味本位に覗き込んでから、しまった、と慌てて顔を引きました。
「・・・・見ましたね」
じろり、と航太郎さんを睨みつける立見くん。
サービス業に慣れているのか敬語ですけど、その態度は全然相手を敬ってませんよ。
「見たくて見たわけじゃ――て言うより、それいったい・・・」
口篭ったのは航太郎さん、さすがに口にするのは憚られたのでしょうか。
一人で画面に視線を落とし、楽しんでいるかのような立見くんです。
その小さなデジカメの画面には、撮ったばかりのメモリが映されていました。
「可愛いから撮ったんですけど?」
なんか文句あんのか、と態度で示した立見くん。
確かに可愛らしかった。
航太郎さんもそれは納得しましたが、可愛いだけじゃ収まらない姿だったことも確かでした。
そこに写っていたのは勿論子ヤギの格好をした菊菜ちゃんです。
が、しどけない格好で誰かを見上げて、画面に入ってませんけれども足を広げちゃっている感じがするのは気のせいではないでしょう。
肌蹴たシャツと腰骨ギリギリまで写ったところは穿いていたはずの短パンは見られませんでした。
「・・・・合意だろうな」
オトナとして、常識ある人間として、航太郎さんはとりあえずそう聞きました。
「お仕置きです」
立見くんってば、それは答えになっていないですよ。


5 「・・・何をしたらそんな可愛そうなことに」
まさに狼に食べられちゃった子ヤギさんを気遣って航太郎さんは頭を抱えます。
けれども立見くん、そんなことは全くもって気にかけません。
「お仕置きだっつってるでしょ」
ああ、立見くん、言葉遣いが崩れてます。
「菊菜が自分から何でもきくっつったんですから、言ったことには責任を持たないと」
「確かに――そう、なんだが」
あああ、航太郎さん、押し切られそうです! こんなときこそ歳の功! 
頑張って言い聞かせないと躾は早いうちからです!
「だがな、それがもとで嫌われたり、泣かれたり」
航太郎さんは自分がされて嫌なことを並べました。
よっぽど深津さんが好きなんですねー。
しかし立見くんはただの立見くんではなかった!
「泣くんなら、とことん泣かせたいですね。ぐしゃぐしゃになるくらい」
その顔は――まだ未成年とは思えません。
「それに、嫌われることなんかない」
その自信はいったいどこから溢れてくるのでしょう? でもね、実際は危機ですよ!



「これは、家の中で撮ったのかな。他にあっても、きっと隠し撮り出来るような場所でしょうから、大丈夫ですよ」
そう言う深津さんの笑顔に菊菜ちゃん安堵を取り戻します。
「それにしても、どうしてこんな格好をしたんですか?」
優しく、年長者らしく深津さん、いい大人代表みたいです! 菊菜ちゃんはでも、少し俯いて、それがまた顔を赤らめていて、躊躇っていて。
深津さんでもそっと息を飲んだくらいです。
きっとあの格好を目の前にされたら、さぞ似合って可愛かったことでしょう。
「・・・あの、俺が・・・立見の忠告、無視しちゃって・・・それで、あの、」
お仕置きですね。 なるほど、そういう経緯であのような格好に。
しかし立見くん、ナイスチョイス! 言いにくそうにする菊菜ちゃんに、深津さんはふわりと笑って、
「そうですか、大変でしたね。でも、もうそれは終わったのでしょう?」
敢えてお仕置きという言葉は使いません。
ちょっと言って欲しい気もしないでもないです・・・あわわ。
「そ、そうです・・・・多分」
そう言うけれど、菊菜ちゃんはどこか不安気。
「どこか気になるところが?」
「・・・俺が、逃げ出しちゃったから・・・立見、怒ってないかな」
絶交を決意したというのにこの感情の揺れ。
全く持って、可愛い生き物です!
深津さんもぎゅう、としたくなるのを堪えて微笑みました。
「大丈夫ですよ、こんなに可愛い菊菜ちゃんを怒るなんて、出来ません」
そう・・・・だといいんですが。立見くん?



「すっげぇ、可愛くてこっちが狂いそうだっての」
「ああ・・・そうだよな」
こちらは一体どうしたことか。
何故かちょっと目を放した隙に、向かい合って膝を付き合わせて語っちゃってます。
可愛いことに怒る立見くんに、航太郎さん、同意してどうするんですか!
「必死で耐えてんのに無邪気に所かまわずくっ付いてくるし、あろうことか――」
「無防備に、寝る」
「・・・だよな。そんなことするなら、何されても構わないよな?」
「うーん・・・寝るところもそれはそれで可愛いと思うが」
「航太郎さん、枯れたのか?」
「それなら深津を見ただけでイラついたりしない」
「オトナの余裕かよ?」
「・・・それを持ち続けたいつもりだ」
「そんなもんあっても、手からいつかすり抜かれちまったら終わりだぜ?」
「・・・・そうなんだがな、でも深津の意志も尊重したい」
「はー、そんなこと考えるなら、俺はまだガキで結構だね」
「・・・長く付き合って行きたいから、そう考えるものだろう」
「長く・・・・」
お、何やら方向性のおかしい話をしています二人ですが、立見くん思案中ですか?
菊菜ちゃんのことをちゃんと考えてますか?
「・・・飽きさせず離れられないようにセックスはしてるけど」
「・・・・・それだけで?」
「あと、餌付け」
「ああ、それは重要だな」
えっとー、何の話ですか? ここは?



「もし怒っていらしたら、僕が一緒に謝ってあげますから」
「・・・深津さん」
「ね、だから泣かないで下さい」
ああ、向こうと違ってここは何やら後光まで射してそうです!
「言いくるめられないで、ちゃんと言って、立見くんにも解かってもらいましょう。いつもいつも泣かされてばかりでは、駄目ですよ」
「・・・はい」
酷いことには屈しない。 何だか美しい友情がここに! あ・・・っ! でもそっちには立見くんと航太郎さんが!



「でもああいう格好をさせるのは――」
「させたくない? すんげ、可愛いけど」
「・・・・・しなくても深津は可愛い」
「けど、男のユメっつうかロマンっつうか」
「・・・・まぁ、一回くらいは、」
あっ、航太郎さん、オトナの常識から落ちそうです! ピンチです! 立見くんに一緒に引き降ろされそうです!
「因みに、ウサギセットが残ってるんだけど」
未使用で、と立見くんは悪魔のごとく囁きます。
「・・・・・それはあの子には?」
「や、だって、あまりに似合いすぎてもなぁ、と思って」
で、子ヤギさんですか・・・・グッジョブ! って、あわわ・・・!
「因みにしっぽは丸型。その先は・・・」
「・・・・・それ、」
まさに航太郎さんが悪の道に手を伸ばそうとした瞬間でした。
「航さん?!」
「立見・・・っ」

さて、どうする?!


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fin



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