拍手5 新婚劇場 四葉シリーズ


1 新婚のカタチ
「深津です。こんにちは」
「椿です、はじめまして」
「椿さん、最近同居を始められたとか。おめでとうございます」
「有難うございます」
「新居はいかがですか?」
「新居と言っても・・・俺が伊織の家に上がり込んでいるので、以前からしょっちゅう通っていたので、あまり変わりはないです」
「でも、改めて一緒に暮らすとなると、新しく気付いたことなんか、ないですか」
「ああ・・・そういえば、新婚は一緒にお風呂に入るものだと思っていました」
「・・・・・・はい?」
「違ったんですね。他にも、俺が思い込んでいた新婚生活とは、いろいろ違いました」
「・・・・し、新婚・・・」
「けれど伊織が、家庭の数だけ新婚の形も生活もあると教えてくれまして」
「・・・・・そっ、そうですか、」
「深津さんは?」
「はい?!」
「どんな生活なんですか? 一緒にお風呂、入りますか?」
「・・・・・・・・っは、入りません!!」


2 新妻の心得
「い、一緒に、入っているんですか・・・?」
「はい。初めは入ってくれませんでしたが、先日から、もう諦めました、とか言って・・・何を諦めたのか、教えてくれないんですが。深津さん、解りますか?」
「・・・・・・・・わ、解りません、すみません、勉強不足で!」
「そうですか・・・ところで深津さん、この進行用紙に、深津さんに新妻の心得を聴きなさい、とあるんですが」
「・・・・・もう、なんでしょうか・・・」
「俺が聴くものなんでしょうか?」
「・・・・はい?」
「これは伊織が聴くのだ、と思っていたんですが」
「・・・・ど、どうして、でしょう、」
「伊織が妻だからです」
「・・・・・・・・・え?」
「僕は大学とはいえ、外に毎日出かけているし、だけど伊織はずっと家に居て仕事をして、ご飯を作ってくれてお風呂も用意してくれて、布団も干してくれます。掃除もしてくれます。俺も手伝おうとは思うんですが、何をしても駄目で――最後には座っていてくれ、と頼まれる始末で」
「・・・・はぁ、」
「これでは、俺が亭主で伊織が妻ですよね?」
「・・・・そ、そう、なり、ますか・・・?」
「ちなみに、深津さん」
「は、はい」
「ご亭主の航太郎さんに、毎日どんなご奉仕をされてるんですか?」
「・・・・っ!!!」


3 キレイな奥さん
「ご・・・っご奉仕は、えっと・・・」
「はい」
「・・・・・す、すみません、お教えできるようなことはなにも・・・・至らなくて、申し訳ありません・・・」
「いいえ、そんなことは、」
「僕が、出来るのは、家事くらいです」
「家事が出来たら、素晴らしいと思いますが」
「そうでしょうか・・・・あ、あと、僕は美容師なので、航さんの髪は僕が切ってます」
「そうなんですか、いいですね」
「はい。実はさっきから、椿さんの髪もいじってみたくて仕方ないのですが・・・切らせてはもらえませんか?」
「俺ですか? でも俺は、いつも近所の床屋さんで済ませてるくらいなので・・・」
「・・・・ああ、だからそんなヘアスタイルなんですね。せっかく綺麗な顔をされてるんだから、いろんな髪型をしてあげたくなるんです・・・これは、美容師の悪い癖でしょうが」
「綺麗な顔は、深津さんのような外見を言うのだと思いますが」
「いいえ、充分、椿さんも綺麗です。いじったら、伊織さんは怒りますかね」
「伊織は俺がどんな髪型でもなにも言いませんが、切りますか?」
「切らせてもらえますか?」
「いいですけど、俺が切っても深津さんのようにはならないと思います」
「椿さんは椿さんの、綺麗さがあるんです。いい奥さんは、キレイでいることも大事です」
「・・・・・そうなんですか?」
「そうです。伊織さんをびっくりさせましょうか、こちらへどうぞ」


4 亭主の浮気
「痒いところはないですか?」
「ないです。気持ち良いです。深津さん、シャンプー上手いですね」
「これが仕事ですから・・・」
「伊織も、上手いんです」
「・・・・・そうですか」
「俺も上手くしてあげたいんですが、まだまだ修行が足りません」
「・・・・・そうですか」
「そうなんです」
「・・・・・いつか、上手くなりますよ、起こします・・・鏡の前にどうぞ」
「はい、ありがとうございます」
「全体に短くなりますが、大丈夫ですか?」
「はい、任せます・・・深津さん」
「なんでしょう」
「航太郎さんが浮気したとき、どうしますか?」
「・・・・・っ! は、はい?!」
「浮気です。もちろん、優しそうな人ですから本当にされたことなどないんでしょうけど」
「・・・・・椿さん、」
「はい」
「先入観で人を見ては駄目です。航さんはとても素晴らしい人ですが、それとこれとはまた別です」
「・・・・・浮気をされたことが?」
「もう昔のことなので、蒸し返したくはないですが」
「・・・・・そうですか、俺はしないつもりですが」
「僕も、したこともするつもりもないですけど、人生なにが起こるか解りませんから」
「・・・・そうですね」
「気をつけましょう」
「はい」


5 朝のまどろみ
「・・・ああ、すみません、椿さんを不安にさせたかったわけじゃないんです」
「・・・いいえ」
「もちろん、浮気なんてしない人もいますよ、きっと、伊織さんもしません」
「はい」
「先ほど、初めて伊織さんにお会いしましたけど、とても優しそうな人ですね」
「はい、優しいんです。朝も、俺が中々起きないと一緒に付き合ってくれます」
「・・・・・一緒に?」
「伊織の朝は早くて、俺はどうしてもそれには付き合えないんですが・・・起こしてくれるときに、俺が完全に目を覚ますまで付き合ってくれます」
「そ・・・そうですか」
「深津さんは、朝は?」
「ぼ・・・僕は、僕達は、朝はバタバタしていて・・・お互い自分の用意でいっぱいですから」
「朝のキスは?」
「・・・・はい?」
「いってらっしゃいのキスは?」
「・・・・・ええ?」
「新婚の間は、毎日するものだ、と伊織が言っていたので・・・深津さんも、新婚さんだ、と聞いたのですが」
「う・・・っうちは、一緒に暮らし始めてもう10年以上で、し、新婚なんて・・・っ」
「でも、ずーっと新婚でいてもいいって、伊織が・・・」
「・・・・伊織さんは、少々困った方ですね」
「そうなんですか?」
「伊織さんの言うことを、あまり鵜呑みにしないように」
「・・・・そうなんですか」


6 デパートの喫煙室?
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「暇ですね」
「暇だな」
「・・・こうしていると、あれですね」
「なんだ?」
「買い物をしている奥さんを、ただ待ち続ける旦那さんたち、よく店のベンチや灰皿付近で見かけませんか」
「・・・・ああ、その通りだな」
「はぁ・・・まだかなぁ」
「・・・落ち着かないのか? 別に深津は、取って食ったりしないが」
「いえ、そういう心配をしているわけでは・・・いや、ある意味、そういう心配なのか?」
「何がだ?」
「・・・さっき、進行表っていうのを椿さんが持ってたんです」
「ああ・・・そんなのを持って行ってたな」
「それに、書いてあったんですよ・・・・・新妻の心得って・・・!」
「・・・・・それが?」
「深津さんに教えられてるんでしょうか?」
「・・・さぁ、それは・・・教えて欲しければ、教えてやってると思うが新妻の心得・・・?」
「はあぁ・・・」
「なんだ、教えてもらわなくってもいいとでも?」
「いいですよ・・・椿さん、自分が妻だなんてそもそも思ってないですし」
「そうなのか?」
「家事は俺の仕事です。あの人にそんな能力は付いていませんから」
「・・・・・そうなのか?」
「そうです、余計なこと、吹き込まないでほしい・・・」
「余計なこと?」


7 亭主の愚痴
「お前、もしかしてあの椿って子に都合の良いことを吹き込んでるんじゃ・・・」
「吹き込んでますよ。椿さんがそれで良いって言ってくれるんですから」
「・・・・・それって、」
「俺がおかしいのは自覚してますよ。椿さんには悪いけど、それに付き合ってもらう予定ですから。だから変に常識なんて教えないでいてほしいんです」
「それはなぁ、」
「航太郎さんだって、想像してみてくださいよ。何にも知らないんですよ、深津さんが」
「・・・・・・・」
「教えたら素直に信じて、全部してくれるんですよ」
「・・・・・・・・・」
「させましたね? 今、考えたでしょう?」
「そ――れと、これとは、また・・・」
「でも考えたじゃないですかー」
「俺は・・・人形のような深津じゃなくて良かったと、思うぞ」
「人形じゃないですよ、たまに拗ねたり怒ったり、喜んだり泣いても・・・っあー! なんであの人あんなに可愛いんでしょう?!」
「お前それ、俺に真剣に言われてもな」
「だって今目の前にいるんですから!」
「まぁ・・・俺も深津が可愛いのはちょっと堪らないな、と思うことは・・・」
「毎日でしょう」
「・・・・毎日だな」
「あれって、一種の犯罪ですよねぇ」
「ときどき、シェルターに容れてしまいたい、と思うくらいだな」
「そこで二人っきりでいられたら、俺きっと持ちません・・・」
「嬉しすぎて?」
「ええ、もう、狂いそうです」


8 妻の浮気
「そういえば航太郎さん。俺も、進行表をもらってたんですが」
「なんだ?」
「航太郎さんに、何故浮気をしたのか訊け、と。したんですか、浮気」
「・・・・・・・・・・あれは浮気じゃない」
「したんですね」
「だから違うって!」
「事実は変わりませんよ」
「浮気じゃないんだって、深津に言うなよ、蒸し返すと大変なことになる」
「嫌われたら大変ですねぇ」
「大変、なんて言葉で済むか!」
「どうしてそんなことしたんです?」
「だから、してないって・・・・騙されて、あれは、」
「言い訳はいいですよ。もし、深津さんにされたことを考えれば・・・絶対に出来ないでしょうに」
「・・・・・・・そんなことをしたら、俺は――」
「あ、言わないで下さい。その顔で想像出来ますから。俺を犯罪に加担させないで下さい」
「煩いぞ、お前はどうなんだ!」
「俺は浮気なんてしたことありません。するつもりも予定もないです」
「自営業じゃあな、だが椿って子は――大学生だろう?」
「研究室に入ってますが」
「飲み会コンパも、多いだろうな」
「断ってくれてます。まっすぐ帰ってくれてます」
「断れない付き合いだってあるだろう」
「・・・・・・・・・・」
「あったんだな。ちょっと、世間知らずなとこがあるようだから・・・不安だろう、外に出すのは」
「・・・・・・・どうしてそんな酷いことを言うんです! 考えないようにしていたのに!」
「お前が先に言ったんだ」
「大人気ないですよ!」
「大人になったつもりはない」


9 再会しました
「椿さん! 遅かったです―――ね?!」
「ん? どうしたんだ、伊織?」
「ど、どうしたんですか! その頭は――!」
「深津さんが切ってくれたんだ。シャンプーしやすいらしいぞ。良かったな、伊織」
「いえ、そう、です、けど・・・・っ」
「それから、あんまりお前の言うことを鵜呑みにするな、と深津さんに言われてしまった」
「・・・・・はい?」
「駄目なのか? 俺が無知なのが悪いのか・・・これからは、もっと自分で勉強するから」
「・・・・いえ、あの・・・・でも、」
「ん? どうした?」
「・・・・・・なんでも、ないです。俺も、勉強します・・・」
「うん、一緒にすればいいのか」
「・・・・・・ですね」
「これからも、よろしく、伊織」
「・・・・・・椿さんって・・・!」
「あの子の髪の毛、カットしていたのか」
「・・・はい、そうです」
「・・・・どうした、深津?」
「いえ・・・な、なんでも、」
「なんでもって、目を逸らすのか?」
「・・・ちょっと、あてられて、しまって」
「何に?」
「椿さん、に・・・でしょうか」
「ああ・・・想像は付く」
「え?! そうなんですか?!」
「まぁな・・・で? 俺たちももう一回新婚生活、するか?」
「こ・・・っ航さん!」
「駄目か?」
「そんな・・・っ僕に訊かないでください!」
「お前に訊かないで誰に訊くんだ」

新婚続行中・・・・


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fin



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