拍手43 変態☆おニィさん 書き下ろし



俺の彼氏は変態だ。
身長182センチで日本人なのかと疑うようなスタイルの良さで顔もそこそこに悪くない。
そんなユーヒの職業は保育士さんだ。
背が高く優しくママさんたちにも人気らしい。
毎日保育園に嬉々として出かけ、一日充実した顔で帰ってくる。
訂正、でろーっとした顔で帰ってくる。
ついさっき帰ってきたユーヒの言葉がこれだ。
「今日ねぇ、青組さん(最年少組)の子がね、初めて俺を呼んでくれてね、『ゆーちちぇんちぇい』ってもうむしゃぶりつきたくなるほど可愛いったら・・・!」
ご父兄方のために言っておくが、現実には理性を総動員させて耐えたらしい。
あほだ。
毎回頬染めて語るような内容か。
子供が好きだから保育士になった、というユーヒは立派なペドフィリアだ。
一歩間違えれば犯罪者――いや、脳内はもう犯してると思う。
俺の冷たい視線にもめげず、ユーヒは今日あった可愛い事話を絶えることなく話続ける。
そのうちに、俺の視線にようやく気付いて、
「あ! あのさ、犯罪は考えてないから! 頬ずりして舐めちゃうくらいしか考えてないから!」
それも犯罪に入れようと思えば入るんじゃないのか。
俺は呆れた溜息を吐いたが、この不機嫌さは彼氏が犯罪をしようと思ってるとかそんなことが理由ではない。
「シュータ?」
俺の名前を呼ぶユーヒが、緊張したものになってる。
俺を怒らせたと思ったのかもしれない。
ある意味、怒ってるようなものだけど。
「ちょっと、待ってろ」
俺は一度部屋を出て、用意しておいた服に着替えた。
これを着るのは勇気がいる。
買うことだって、一ヶ月くらい考えた。
だけどもう悩むより動け、だ。
俺は――足の付け根ほどまでしかない短パンを穿き、その上にスモッグを着込んだ。
素足に靴下を穿いて、自分の姿を省みて、本当に情けなくなってくる。
この恰好でユーヒの前にいくことがどうしても出来ず、大声で呼んでこっちに来てもらうことにした。
「ユーヒ! ちょっと!」
「シュータ? どしたの・・・」
立ってもいられず、床に座り込んだ俺は背の高いユーヒを直接見ることが出来なかった。
「しゅ・・・シューちゃんって、呼んでもいいよ」
俺は名前を略されるのが嫌いだった。
初め、ユーヒがそう呼んだのを、激しく嫌がったのを覚えている。
その俺が、ユーヒが頬擦りしたくなる園児と同じ恰好で待ち構えている。
俺は赤い顔を上げられなかった。
この気持ちは、嫉妬だ。
毎日毎日園児が可愛いと連呼するユーヒの、可愛い園児に――負けたくなかった。
俺だって、頑張ったらユーヒに可愛いと言ってもらえるくらい出来る。
そう思ったけれど、想像以上に恥ずかしい。
俯いた俺は、そこでようやくユーヒが黙ったままなのに気付いた。
そういえば、可愛い恰好をしたものの、可愛いのは園児だからであっていい年した俺がこんな恰好をしたら――ユーヒ以上の変態なのでは。
というより、可愛げもない男がこんな恰好をしたって引かれるだけなのでは。
俺はようやくそれに気付き、失敗した、と今度は顔を青くした。
ざあっと血の気が引くのを全身で感じて、これをどう取り繕うか慌てると、ユーヒが息を吹き返したように俺の前に長身を屈め、溜息を吐いた。
「ああああっもう! なんてことしてくれるんだ・・・!」
「え・・・っあ、あの、ごめ、気持ち悪・・・」
かったよな、とうろたえる俺に、ユーヒは切羽詰ったみたいな顔で俺を睨んだ。
「だぁから! 俺は子供にそうゆう欲求を持ってないの! ただ普通に可愛いって思うだけなんだって!」
「あ・・・う、ん。だよな、ごめん、俺が勝手に」
「どーしてくれんの?! 明日っから子供が全部シュータに見えちゃうだろ?! 仕事中にもよおして仕事どころじゃなくなるだろ?!」
「・・・は?」
本気で焦って困っているユーヒに、俺は意味を図りかねて首を傾げた。
えーと、つまり、なんだ。
俺のこの恰好に、もよおしちゃうんだ?
お前、本当――変態だな。
そう思いながらも、俺は顔が熱かった。
こんな馬鹿な恰好した俺でそんなことになるなんて、ユーヒは本当に馬鹿で変態だ。
だけど、そんなユーヒが嬉しいなんて、俺も同じくらい馬鹿だ。
「・・・シューちゃん」
「・・・・う」
ユーヒが低い声で俺を呼んだ。
その呼び方はやだけど、一度呼んで、と言った手前何も言えない。
素足に大きな手が伸びてきて、スモッグの裾で隠れた短パンの中に指が入ってくる。
「ん・・・っ」
優しい手付きだけど、確実に熱を孕んだ動きで俺は背中が震えて前屈みになってしまう。
その俺の耳に、ユーヒの唇が触れた。
「・・・この可愛い子は、俺がイケナイことしても、いいんだよね?」
「・・・・・っ」
イケナイことってなんだよ。
熱くなった耳を、吐息が絡んで舐められた。
「明日っから、マジで俺変態先生になりそう・・・」
まるで今まで変態じゃなかったみたいな言い方だな。
俺を押し倒しながら、ユーヒは溜息を吐いた。
「責任とってよ、シューちゃん。もうガチガチだよ」
腰を押し付けてくるので、何がどうなっているのか俺にもはっきりと解かる。
俺は顔が赤いのを自覚しながら、もうどうにでもなれ、と理性を放棄した。
「・・・ユーヒせんせい、イケナイこと、教えて」
ユーヒの背に手を回し、甘えた声を耳に寄せると、ユーヒの身体が震えて俺を見る目が獰猛になった。

その日のユーヒがどうだったか、とはあんまり思い出したくないけど――いつもより変態だったとだけ記す。
そして俺は、二度とこんな恰好はしないと誓った。



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fin



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