拍手34 ご主人様にお願い 神様の人形シリーズ



「好きって言って、ご主人さま」  ルビィ


「おはよう、ルイ?」
「・・・・・・おはよう?」
昨日一緒に寝たベッドで起きるなり、顔を間近に寄せたルビィが見つめていて、驚きながらも返した。
「どうしたの、早いね・・・」
いつもお寝坊さんなのに、という言葉は敢えて言わない。
ルビィはそんなことどうでもいいように、真剣な顔で、
「あのね! 好きって、言って!」
「・・・・・え?」
「あっ、待って! あのね、すんごく、気持を込めてね、俺のこと想ってね」
「・・・ルビィ? どうしたんだ、いきなり。そんなこと強請らなくても、いつでも好・・・」
「ああっだめー!」
「・・・・は?」
好きだよ、と言おうとしたルイエルの口を両手で塞ぎ、ルビィは真剣さを通り越して泣きそうな顔で、
「いっぱいいっぱい、好きって思ってから言って!」
「・・・んん?」
いったいどういうことだ、と説明をルイエルは求めた。


「・・・取扱説明書?!」
ルビィの、とルイエルは聞くなり驚いて訊き返してしまった。
「そんなもの、あるなんて聞いてない!」
「うん、昨日ね、博士から届いたの」
「は?!」
「それでね、俺、一年前の今日、生まれたって覚えてる?」
「あ・・・ああ、」
ルイエルは作られた日に、初めて逢った日を思い出してそういえば、と呟く。
「博士が俺にね、成長するシステムを入れてるんだって」
「なに?」
「それがね、ルイが俺に、今日好きって、言ってくれたらおっきくなれるって」
「・・・・・はい?!」
そんなことができるのか、とルイエルは訝しんだけれど、あの博士なら、と思い直して目の前の少年を見つめた。
「でもね、ルイが俺が、おっきくなったらいいなって思ったらおっきくなれるの。このままでもいいなって思ったら、このままなんだって」
どっちがいいの、と真っ直ぐに見つめられて、ルイエルは答えがすぐに出て来なかった。


ルビィは少しだけ、大きくなった。
本当に本当に、少しだけだ。
ルイエルが言うには、
「ルビィは大きくなりたいみたいだけど、俺はゆっくり成長を見ていたいから、その妥協点かな」
らしい。
大きくなってみたかったルビィだけど、朝からもう一度ベッドに縺れ込んで、たっぷり愛してもらって、そこで蕩けるように想いを囁かれたほうが重要だった。
早起きをしたルビィは、結局二度寝をしながら少しだけ大きくなった身体で今日も幸せいっぱいだった。



「キスが欲しいの、ご主人さま」  音李

「・・・うっ!」
帰宅を知るなり、音李は劉芳の胸に飛び込みお帰りなさい、のキスを強請った。
しかし少し躊躇ったように見えた劉芳の首に縋って唇を寄せて、綺麗な顔を思い切り顰めて引いた。
「・・・音李」
「・・・なに? 変なニオイ!!」
厭、とするり、と音李は劉芳の身体から離れ口と鼻を両手で包んで塞いだ。
「何食べたの! 最悪!」
「・・・・・音李」
今日の会食は会長の趣味で、香草料理だった、と告げる劉芳に、音李は素直に嫌悪を見せる。
自分から縋りついて来たくせに、何よりも厭だ、と言う顔をして逃げる音李に、劉芳の目が据わった。
「それが主人に対する態度か?」


音李はそのまま寝室へと担いで放り込まれ、抵抗も虚しく組み敷かれて泣かされた。
「あ、あー・・・や、りぅ、ふぁあ、んっ!」
「駄目だ」
「んー・・・やぁだ、ああ、おねが、いー・・・っ」
何度も何度も追い立てられて、音李は許して、と泣いて請う。
匂いのきついものを食べた、という劉芳からは、その肌からもいつもと違う香りが漂う。
それにも戸惑って、音李は確かめるように唇を尖らせた。
「り、劉芳、あ、ああ、やー・・・」
「厭だと言ったのはお前だぞ」
「ああ・・・ご、ごめ、なさ、いー・・・っ」
だから、と首に細い手を回して縋るのに、劉芳は人の悪い笑みを浮かべて、
「謝るだけか?」
「んー・・・っ」
音李は泣き顔をフルフルと振って、愛らしい唇を開いた。
「劉芳・・・キスを、」
「こんな匂いは厭なんだろう?」
「んんっ、やっお願い・・・キスしてください」
そこから舌を覗かせて強請る音李に、劉芳はようやく許しを与えるように微笑んだ。



「しるしを下さい、ご主人さま」  アリタータ

「レヒェン、これは、何ですか?」
鈴が鳴っているかのような透明な声で、アリタータが棚に大事そうに置かれた腕環を指した。
とても豪奢な彫り物がしてあって、色彩も豊かだ。
綺麗だ、と目を瞬かせて見ていると、レヒェンは少し恥ずかしそうに、
「ああ・・・それは、カジクが、」
夫となった相手が、結婚の約束にくれたものだ、と教えてくれる。
「けっこんのやくそく?」
「ええと・・・そうね、ずっと、一緒に居ますって、しるしかな」
幼いアリタータに解かるように教えるレヒェンの言葉に、驚いた。
「しるし・・・ずっと一緒にいる、しるし」
「そうよ。ああ、アリも強請れば、くれるかもね」
あの歌姫に甘い旦那さまは、とレヒェンがからかう声は、もうアリタータには聴こえなかった。


「ツェン、お願いがあります」
「・・・・なんだ?」
夜になって、帰ってきたツェンにベッドの上に正座して待ちかまえたアリタータは、訝しむように驚いた相手には気にせず、
「結婚してください」
「は?!」
「そしてしるしを下さい」
「はぁ?!」
いきなりなことを言い出したアリタータに、ツェンは恨みがましそうにまたレヒェンが要らないことを、と呟いたけれど、
「・・・駄目ですか?」
愛らしい顔を辛そうにするアリタータを見れば、そんなことは吹き飛んでしまう。
「・・・いったい、どうしたんだ」
せめて理由を教えてくれ、と溜息を吐くツェンに、アリタータは昼間に見たレヒェンの腕環を話した。


「ああ、あの腕環か・・・」
知っているように頷いたツェンに、アリタータは真剣な顔で、
「駄目ですか? 僕じゃ、結婚出来ませんか?」
「・・・あのなぁ、」
ツェンは同じベッドに腰を下して、
「一緒に住んで、一緒に飯を食って、一緒に寝る。もう結婚してるようなものなんだが」
「・・・でも、しるしが」
ないんです、とアリタータが寂しそうに俯いてみせた。
ツェンは溜息を殺しながら髪をガシガシと掻いて、それから思いついたのか、
「付いてるだろ」
俯いた顎を指先で持ち上げて、間近で笑った。
「・・・? 何がですか?」
「しるし、結婚ってか、俺のってヤツが」
「・・・ツェンの?」
「昨日もいっぱいつけておいたぞ」
「・・・え?」
身体に、とツェンはアリタータの服を開いて肌を見せる。
白い肌に散るのは、昨夜の――以前から続く、情事の痕跡だ。


アリタータはじっと自分の身体を見て、
「・・・これが、しるし」
「・・・まぁ、物が欲しいってんなら、今度何か探して・・・」
買ってやる、と言いかけたツェンの身体は、アリタータが強く引っ張ってベッドに倒れた。
「しるし」
「え?」
「放っておいたら、消えてしまいます」
「あ? ああ、そうだな・・・」
昨日より以前に付けたものは、もう消えかかっているはずだ。
しかしアリタータは押し倒すようにしたツェンの上で目を輝かせて、
「消えないように、毎日ください」
「あ?」
「ずっとずっとください、いっぱいいっぱい、ください」
ね、と微笑む歌姫は、その美声でツェンを煽る様に囁く。
「・・・アリタータ・・・っ」
ツェンの、何かに罵るような声が漏れ聞こえたけれど、すぐに組み敷かれ直されたアリタータには気になるものではなかった。



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fin



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