拍手24 願う男―記憶― 書き下ろし



翼をくださいと天使に願ったら、
お前の大事なものをくれたなら、
と言われた。


僕は最近よく見る夢を教えた。
「それで?」
男は興味もなさそうに呟いただけだ。
一度情事を終えたけれど、さらりとした関係は濃密なものを残さない。
「大事なものって言われてさ、俺、答えられなかったんだ」
「どうして」
「大事なものって・・・なんだろう」
僕は解らなくなったのだ。
欲しいものをくれるなら、それと同じものを差し出さなければ。
だけど、僕は大事なものが解らなかった。
僕にとって、大事なものってなんだろう。
あの翼と引き換えにするほど、大事なものだ。
天使の視線は強く、僕を覗き込んでいた。
ちょうど、上からもう一度僕を見る男のように。
「なんで翼が欲しいんだ」
「なんでって・・・」
僕は男の背中に手を回して撫でた。
尖った肩甲骨が、そこにあった。
ここに、翼があったなら。
僕の腕なんて振り解いて、きっとどこへでも飛んで行ってしまうだろう。
ああ、そうか。
僕が翼を強請ったのは、いっそ籠の鳥にしてしまいたいと思ったからかもしれない。
男の目に吸い込まれるように見つめられながら、僕はあれは本当に夢だったのだろうか、と思った。
僕は大事なものを、あげたのだろうか。
僕は翼を、奪ったのだろうか。
だから男は、ここに居るのだろうか。
そもそも――この男は、誰だっただろうか。
解っているのは、重なった身体をもう離したくないと、繋ぎ止めたいと思う気持ちだけだ。

僕は、翼をもらったのだろうか。


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fin



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