拍手23 壊す男―依頼― 書き下ろし



構内でも有名な浮気グセの男を振ってくれ。
少々珍しいことを言われて、僕は楽しそうに驚いた。
目の前で頭を下げずに頼むのは、数人の同女学生たちで――おそらく、浮気男の被害に合った彼女たちだろう。
それが結束してしまうほど、酷い男なのだろうか?
「知っての通り、僕はゲイなのだけど――それでいいの?」
僕の趣味も、構内では知られているはずだった。
彼女たちは頷いて、どうやら異性よりも同性に振られたほうがダメージは強いだろう、とのことで。
いや、女性の考えることは解らない。
「ところで、僕の報酬は?」
僕はすでに受ける気でいたのだけど、そんな彼女たちが面白くてつい口にした。
彼女たちは少しうろたえたけれど、
「お金はいらないけれど・・・うん、なにか考えておくから、頼むね」
僕は楽しそうに笑った。


そういう理由であるなら、僕はそろそろこの男を振らなければならないのだけど。
僕の上で腰を振る男を見上げ、僕は改めて男を確かめた。
浮気でもいい、と言われるほど容姿は整っているし、遊ばれたい、と思われるほど少々野性味もある。
身体つきもスポーツは大好きだ、と言うだけあってしっかり筋肉も付いているし、しかしむさくるしいほどではない。
つまり、僕の好みなのだった。
声をかけて、男を知らなかった相手はすぐに興味を引かれて僕に落ちた。
身体だけで誑かせたわけではないけれど、この男は今は僕に夢中だと解る。
どうしたものか、と考えていると、
「お前、余裕じゃねぇか・・・」
上から牙をむくような声が降ってくる。
「俺が頑張ってんのに、他人事みたいに」
「そんなこと、ない、よ、だって、あ、ほら、も・・・いく、ん! っん・・・」
「うわ、ちょい待て! こら・・・・っつ、」
避妊具を付けたのは最初の数回だけで、僕は中に受け入れることを望んだ。
このときも僕を攻めていた男を絡めとり自分と同じまで引き上げた。
中に吐き出された熱に吐息を吐いていると、悔しそうな男が呻く。
「くっそ、搾り取られた・・・」
出て行ってしまう喪失感に、僕は物足りなくなって、
「もう終わり? 第二ラウンドはないの」
起き上がって煙草に手を伸ばした男を艶を含んだ目で見上げてやると、
「するに決まってんだろ。ちょい休憩だよ」
「そ」
煙草を持たない指が、僕の髪を梳いてゆく。
ああ、どうしようかな?
僕はこの指が好きなのだ。


構内のベンチで男と並んで座っていると、前に女子たちに囲まれた。
男も見覚えたある彼女たちばかりだ。
僕も忘れてはいない。
付き合い始めたは良いけれど、いつまでたっても別れる気配もないことにいい加減焦れたのかもしれない。
「ねぇ、まだなの?」
その質問をこの男の前でするあたり、自分たちで止めを刺そうと決めたのかもしれない。
まったく、女性は集団になると怖いものはない。
「まだって、どういうことだ」
男が僕に視線を向けてくる。
僕はそれを受け止めながら、彼女たちを見上げていた。
「この人に、貴方を振ってって頼んだのに!」
男の視線が鋭くなって、僕を突き刺す。
彼女たちの視線もキツい。
僕は少し溜息を吐いて、
「君に近づいたのは、頼まれたからなんだ」
「なんだって?」
君を傷つけるように。
最低な男を傷つけるように。
男が彼女たちを疎むように睨んで、そして僕にも強く眼差しを向けた。
「傷付いた?」
「・・・・・・・・これが復讐かよ」
男の呻く声は、僕の答えを肯定している。
僕はすぐに立ち去ろうとした男の手を取って引きとめ、彼女たちを見上げた。
「ねぇ、成功したのだから、報酬をもらっていいかな?」
驚いた彼女たちに、僕は続けた。
「お金はいらないよ。だから、この男を貰う」
驚愕して騒ぎ立てる彼女たちをよそに、男も驚いて僕を見ていた。
「ちなみに、拒否権はないよ。ねぇ?」
当然だろう? と微笑んで見せると、男は燻っている怒りを抱えたままそれを持っていく場所を失って、呆れも含んで戸惑っているようだった。
もう彼女たちの非難を込められた声なんか聴こえない。

ターゲットに本気になってしまうなんて、よくある話だろう?


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fin



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