拍手22 殴る男―殺陣― 書き下ろし



僕のカレシはボウリョクテキだ。
だけど僕はカレシがスキだ。

狭いベッドに二人並んで寝ていた。
ううん、正確には、カレシは壁側に上体を凭れ掛けて座って雑誌を捲っていた。
全裸のままで、布団を被っていた僕は転がったままこっちを向いたテレビ画面を見つめていた。
「あ、殴られたよ、今」
画面の中にあるのは、混雑した乱闘シーンだ。
沢山人間が暴れている。
その中の一人が、僕の後ろに居るカレシだ。
「お前・・・よく見分けがつくな? 自分でもどれかなんて解んねぇぞ」
呆れた声のカレシだけど、僕の視線はもう画面の中の戦う男に夢中だ。
「イタっ! あれって鉄パイプ? 本物? あ・・・その腕の痣、それなんだ? あっ殴り返した! すごーい、つよーい!」
「ありゃ見せかけだ。本気で殴ると怒られる」
「そうなのー? あー倒れちゃったぁーこれだけ?」
「それだけ」
乱闘シーンが終わって、画面は主人公の男を追って違う場所へ移っていた。
この間は、時代劇のチャンバラシーンで悪徳代官の手下だった。
すぐに切り殺されちゃったけど、若侍の格好もいいな、って言うとカレシは笑った。
その殺されるシーンのために、殺される剣術を習ったんだって。
倒れ方まで決められてるんだって。
だからカレシはこっちのヤクザもののほうが楽でいいっていつも言ってる。
「ねぇねぇ、どうして主役はやらないの?」
カレシの出なくなった物語はとってもつまらない。
主役なら、最初から最後までずっと画面に居てくれるのに。
僕はテレビを消して後ろに座ったままのカレシを見上げた。
カレシは少し驚いた顔をしたけどすぐに笑って、
「お前の思考はどうなってんだろうな・・・」
呟いた後で、
「人ごみにまぎれてる殺陣が一番性に合ってる」
「そうなの? でもさ、だって、さっきの主人公のヒトより、絶対恰好いいのに」
「不満なのか?」
「うーん・・・」
言われると、僕はよく解からない。
日々どこかに傷を付けて帰ってくるカレシ。
傷だらけで時々病院にいるけど帰ってくるカレシ。
僕のところにちゃんと帰ってきてくれるカレシ。
カレシは雑誌を放り投げて考え込んだ僕を組み敷いた。
裸の身体が重なって、僕はすぐに考えていたことが消えた。
「これが不満なのか?」
カレシの存在を教えるように腰を揺らされて、僕は迷わず足を開いてしまう。
「ううん、不満じゃない」
僕の身体に回るその手が、いつも怪我してることを知っている。
殴られても倒されても大丈夫なように、いつも身体を鍛えてることも知っている。
喧嘩ばかりしてた昔から、喧嘩の仕事をするようになって、それが一番好きなことも知っている。
毎日殴って殴られて傷を作ってくるカレシ。
その身体で僕を抱いてくれるカレシ。

だから僕は今日も平気。


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fin



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