拍手21 赦す男―我慢― 書き下ろし



どこに触れても、性感帯なのではと疑うほど、感じやすい身体だった。
「ん・・・っふぅ、ん、んっ」
カーテンを閉めた教室の窓に押し当てて、腕の中に引き込む。
両手で柔らかすぎる、と思う臀部を揉むだけで頬を上気させて震えているのは、軽いと評判の先輩だ。
抱かれることに慣れている身体は、快楽を我慢出来ないだけなのだと知る。
腰を押しつけるように揺すってやると、吐息を漏らすように熟れた唇を開いて視線を上げて来た。
「ん・・・っね、え?」
黒縁の、細見の眼鏡の中を覗き込むように、何を求めているのかそれだけで解かった。
顔を屈めて寄せてやると、期待したように長い睫の目を伏せる。
しかし唇ではなく、丸い鼻先を舐めた。
「んっ・・・」
期待はずれに驚いて、大きな眼がもう一度見詰めてくる。
「欲しいんですか?」
「う・・・ん、うん、」
早く、と唇を少し開いて両手を肩に縋られた。
その奥は魅力的な舌が覗いていたけれど、やはり口付けはしない。
詰襟の制服を、開くこともなく裾から手を潜り込ませる。
細い身体を確かめるようにシャツの上から這うと、ぷつんと尖った乳首に触れた。
「あ・・・っ」
指先でそれを弄ぶと、口付けを求めたことも忘れたように目を眇めて歓喜に耐える。
その顔に煽られることは、確かだ。
想像以上だった。
相手を立たせたまま、膝を折って素早くベルトを解く。
中心に顔を埋めて、初めて口の中に含んだ。
「ン――・・・ッ」
体中を快感が一層深く巡るのか、髪の毛に細い手が絡む。
「あ、あ・・・っあぁっ」
上体を前に倒すように、そこだけで攻められる快感に抗いはしないようだ。
濡らした指先を、ゆっくりと奥の孔に埋めてしまうと、考えていた以上にキツく絡んだ。
「あー・・・っあ、あっ」
我慢できない、と口に咥えられつつも腰を揺らす。
「や、もう、おねが、い、ああっ」
「・・・欲しいんですか?」
もう一度同じ質問をした。
それに否定することなど有り得ない、と小さな頭を何度も振る。
「我慢してください」
「や・・・っだ、なん、でっ?」
強請れば与えて貰える。
それはいつものことだったに違いない。
驚いた顔に何よりも辛い、と眼を潤ませて、欲しいと強請る。
堕ちない男はいないだろう。
「こっちは我慢しなくてもいいですよ」
「や、あ、あっん、いくっや・・・っ」
指先で深くを擽り、舌と片手で性器を煽った。
充分に熱くなっていたものが、簡単に弾けて口の中に溢れる。
荒い呼吸を繰り返すのを聞きつつ、乱れた制服を整えた。
「・・・なん、で?」
続きは、とぼんやりした視線が立ち上がった顔に向けられる。
「気持ち良いこと、好きでしょう」
「・・・うん、」
だからしないの、と首を傾げられて、その耳に触れた。
頬を撫で、細い首をなぞる。
一度も触れなかった唇に親指で触れると、躊躇うことなく開く。
やはり柔らかい、と確認すると、顔を寄せた。
「もっと、気持ち良いこと、教えてあげましょうか」
「・・・・ほんとう?」
潤んだ眼が、歓喜に揺れた。
その眼に覗きこまれて、眼鏡の奥で笑ってしまう。
唇を触れるか触れないかで止めて、
「我慢してください・・・」
「が、まん・・・?」
吐息をかけると、踵を上げるように口付けをされそうになる。
それに少し身を引いて拒むと、眉が下がり唇がむっと尖った。
吹き出すのを堪えて、また触れないギリギリまで顔を寄せる。
「我慢です。俺が良いと言うまで、我慢して、誰にも触れさせては駄目です」
「・・・いつまで?」
明日? と首を傾げる身体を抱きよせて、また背中から下へ掌を移動させる。
「俺が、良いと言うまで、です」
不思議そうに見上げてくる顔に、笑みを堪え切れず唇を塞いだ。
「ん・・・っん、んっ」
口の中も性感帯なのではないだろうか、と思うほど舌でどこに触れても反応を見せる。
腕が伸びて、首に回そうとするのを感じてするりと逃れるように口づけを離した。
「あ・・・」
「・・・良いですね、我慢ですよ?」
足りない、と訴える眼にもう一度念を押して、躊躇いもなく身体を放す。
教室を出ようとする背中に、ずっと視線が絡むのを感じたが、足は止めなかった。



我慢なんて、初めてだった。
少しのことだ、と思っていた。
少し我慢すれば、もっと気持ち良いことがある、と自分に言い聞かせた。
もう一週間も誰にも触れていない。
身体が発火しそうなほど熱かった。
きっと明日には、と期待し続けて、今日もなさそうだと顔を俯かせる。
校内で見かける男は、年下だと知っているけれど背が高かった。
背伸びしないとキスが出来ない。
せがんだのに、あの日は一度しかしてくれなかった。
こんなことも、初めてだ。
もう充分我慢した、と見かけるたびに視線を向けるのに、それは絡むことはなくただ背を追うようになってしまう。
昨日は一人でしたけれど、いつものように気持ち良くなかった。
ただ溜まっていたものが吐き出ただけだ。
射精に感じたけれど、もっと気持ち良いはずだ、とただ想像が膨らんで自慰も楽しくない。
いったいどのくらい気持ち良いのだろう。
想像するけれど、期待だけが膨らんで、交わされない視線に、近づきもしない男に胸の中に穴が空いたように寂しさを感じる。
俯いて顔を歪めると、他の男が手を差し伸べてくる。
それを取りたいと手を動かしかけて、首を横に振った。
我慢しなきゃ。
けれどいつまですればいいのか、寂しさから虚しさに変わってしまう。
ふらりと向かったのは、あの日と同じ教室の片隅だった。
誰も居ない場所で、記憶にある手を思い出す。
思い出して、座りこんだ足の間に手を伸ばしかけて止めた。
自分で慰めても、きっと気持ち良くなどない。
俯いた眼から溢れた雫が抱えた膝の上に落ちた。
ずっと待っていた声が聴こえたのは、その時だ。
「よく我慢しましたね」
優しい声に顔を上げると、黒縁の眼鏡の奥で笑う男が立っていた。
褒められたことに嬉しさを感じて、しかし放っておかれたことに寂しさと悔しさを感じて、そのまま涙が止まらなかった。
座り込んだ目の前にしゃがんで視線を同じにして、子供のように抱きかかえられる。
「ご褒美をあげなければね」
「・・・ごほうび?」
眼鏡の奥を覗き込むと、強い視線と絡んだ。
「とっても気持ち良いもの、欲しいでしょう」
指先が唇に触れて、もう我慢出来なくなった。
首に腕を回して逃がさないようにして、キスを求める。
ご褒美は拒まれることはなかった。


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fin



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