拍手14 ご主人様、お留守番なんて嫌です 神様の人形シリーズ 




「何だ、これは」
劉芳が一ヶ月の不在から帰宅して、まず言った言葉だった。
いつも冷静な執事がその目に困惑を浮かべる。
屋敷中に広がるのは、何十分の一かの家屋などの模型だ。
劉芳に飾る趣味はない。執事も主人の趣味に従う。
すれば、するものは一人しかいない。
「音李はどこだ?」
「お部屋に。ですが、これをなさっていないときは本当に・・・」
ソファに座り、人形のように動かない、と執事は戸惑って口にする。
人形ではあるけれど、音李は性能の良い人形だった。
本当に人間のように振舞えるし、人間以上に美しさも持っていた。
劉芳が長期不在になってから、街に買い物に出かけた音李は玩具屋で模型創りを見て購入した。
それ以来日々追加され創り続けている。
かなり精巧なそれは、一体につき一日で出来るものでもない。
それがこの数並んでいれば、音李が寝る間もなく続けているのだと知れる。
劉芳は珍しく溜息を吐いて、音李の部屋に足を向けた。



「音李」
部屋に入ると、また足の踏み場もないほど床一面に模型が広がっていた。
それに劉芳が入室に躊躇うと、音李は床に座り込んで模型創りから手を休めないまま、
「入ってこないでください。壊れてしまいます」
劉芳は苦笑するしかない。
これは相当機嫌が悪いな、と感じたのだ。
「音李・・・悪かった」
誰よりも強い存在の劉芳は、実はこの小さな人形に何より弱い。
素直に謝った劉芳に、音李は少しだけ気を向けて、
「・・・滞在先で、どなたかお相手が、いらっしゃいましたか」
もちろん夜の、ということだ。
劉芳は笑うしかない。
「お前に似た人形を差し出された」
「・・・・・・・」
「しかし、お前でないものが欲しくはない」
その言葉に、音李は手を止めて反応していることに気付いていない。
「・・・可愛がってあげれば良かったんです」
それは劉芳のために差し出されたもので、他の誰でもない。
顔が歪んでいることに、音李は自覚がないのか、と劉芳は笑う。



「これをどけていいか」
「駄目です」
「音李」
「僕、これを創っている最中ですから、劉芳は向こうでお仕事でもなさっててください」
忙しいんでしょう、と続けられて、劉芳は相当根が深い、と溜息を吐く。
実家の慶賀の祝いに帰っていたのだが、劉芳としてはそこに音李を連れて行きたくはなかった。
好奇の目に曝されて、自尊心の強い一族の誰かが音李を攫わないとも限らない。
それに以前音李を抱いた叔父も来ていた。
しかし劉芳を見ない音李に、先に折れてしまうのだ。
「・・・解った、次は、必ず連れて行く」
劉芳の降参の言葉に、音李は漸く顔を上げて主人を見つめた。
美しい人形の顔は、どこも翳りはなかった。
そしてその顔で、誰よりも綺麗ににっこりと微笑んだのだ。
立ち上がり、小さな足で模型の隙間を縫って劉芳のもとまで駆け寄った。
「その顔が、凶悪だな」
「なんですか?」
愛らしい人形を抱き上げ、劉芳はいつもの笑みで覗き込んだ。
「まずは、一ヶ月分可愛がってやる」
目に強く情欲が浮かんでいた。
音李はそれが嬉しい、と笑ってそっと間近にある唇に触れた。


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fin



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