拍手14 ご主人様、お留守番なんて嫌です 神様の人形シリーズ 1 「何だ、これは」 劉芳が一ヶ月の不在から帰宅して、まず言った言葉だった。 いつも冷静な執事がその目に困惑を浮かべる。 屋敷中に広がるのは、何十分の一かの家屋などの模型だ。 劉芳に飾る趣味はない。執事も主人の趣味に従う。 すれば、するものは一人しかいない。 「音李はどこだ?」 「お部屋に。ですが、これをなさっていないときは本当に・・・」 ソファに座り、人形のように動かない、と執事は戸惑って口にする。 人形ではあるけれど、音李は性能の良い人形だった。 本当に人間のように振舞えるし、人間以上に美しさも持っていた。 劉芳が長期不在になってから、街に買い物に出かけた音李は玩具屋で模型創りを見て購入した。 それ以来日々追加され創り続けている。 かなり精巧なそれは、一体につき一日で出来るものでもない。 それがこの数並んでいれば、音李が寝る間もなく続けているのだと知れる。 劉芳は珍しく溜息を吐いて、音李の部屋に足を向けた。 2 「音李」 部屋に入ると、また足の踏み場もないほど床一面に模型が広がっていた。 それに劉芳が入室に躊躇うと、音李は床に座り込んで模型創りから手を休めないまま、 「入ってこないでください。壊れてしまいます」 劉芳は苦笑するしかない。 これは相当機嫌が悪いな、と感じたのだ。 「音李・・・悪かった」 誰よりも強い存在の劉芳は、実はこの小さな人形に何より弱い。 素直に謝った劉芳に、音李は少しだけ気を向けて、 「・・・滞在先で、どなたかお相手が、いらっしゃいましたか」 もちろん夜の、ということだ。 劉芳は笑うしかない。 「お前に似た人形を差し出された」 「・・・・・・・」 「しかし、お前でないものが欲しくはない」 その言葉に、音李は手を止めて反応していることに気付いていない。 「・・・可愛がってあげれば良かったんです」 それは劉芳のために差し出されたもので、他の誰でもない。 顔が歪んでいることに、音李は自覚がないのか、と劉芳は笑う。 3 「これをどけていいか」 「駄目です」 「音李」 「僕、これを創っている最中ですから、劉芳は向こうでお仕事でもなさっててください」 忙しいんでしょう、と続けられて、劉芳は相当根が深い、と溜息を吐く。 実家の慶賀の祝いに帰っていたのだが、劉芳としてはそこに音李を連れて行きたくはなかった。 好奇の目に曝されて、自尊心の強い一族の誰かが音李を攫わないとも限らない。 それに以前音李を抱いた叔父も来ていた。 しかし劉芳を見ない音李に、先に折れてしまうのだ。 「・・・解った、次は、必ず連れて行く」 劉芳の降参の言葉に、音李は漸く顔を上げて主人を見つめた。 美しい人形の顔は、どこも翳りはなかった。 そしてその顔で、誰よりも綺麗ににっこりと微笑んだのだ。 立ち上がり、小さな足で模型の隙間を縫って劉芳のもとまで駆け寄った。 「その顔が、凶悪だな」 「なんですか?」 愛らしい人形を抱き上げ、劉芳はいつもの笑みで覗き込んだ。 「まずは、一ヶ月分可愛がってやる」 目に強く情欲が浮かんでいた。 音李はそれが嬉しい、と笑ってそっと間近にある唇に触れた。 いつもぱちはちありがとうございます!励みになります! |
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