拍手12 クロヤギさんからの手紙 小春日和シリーズ 



「やっぱり、収まるトコに収まったって?」
友人、緑川の呆れた感想にも、綾部は目尻が下がりっぱなしで頷いた。
「心配かけたなー」
「別に心配なんかしてねぇよ、ネタ提供どうもって言いたいけど、解りきった結果は記事にもなんねぇ。まぁでも・・・あの黒蜜だもんな、何らかの反応はあるかもだぜ、気をつけろよ」
新聞部らしいコメントで貶されたが、綾部はやはりどこ吹く風で早朝だというのに気持ちは放課後に向かっていた。
腕の中に綺麗な綺麗な黒蜜を収めた翌日。
所謂、お付き合いを始めて一日目。
出来た手ほやほやな関係は、もう誰が何を言っても馬耳東風な綾部だった。
実は登校するなり、話題の綾部は好奇の的になっていたのだが、その本人はまったくそれに気付いてはいない。
意識は全て、麗しい後輩に向かっていたのだった。
その美しい青年は、やはりその外見だけあって心奪われるのは綾部だけではなかったのだと、綾部が気付いたのは待ちに待った放課後になってからだった。

黒蜜の部活動は変わらなかった。
放課後になって、その資料室に一人になるというのなら、綾部が通わないはずもない。
今日も二人っきりになるべく足取りも軽くそのドアを開けると、内側で途方に暮れたような黒蜜が居た。
「・・・・どうした?」
「・・・・先輩、」
いつも穏やかな表情を崩さない黒蜜なのだが、今ははっきりと困惑を浮かべて動くことも出来ないように見えた。
それに首を傾げると、綾部を振り返った黒蜜は困った顔のまま、
「それが、あの・・・」
黒蜜が戸惑いつつも見ていた机を見ると、手紙が山になって重なっていた。
「なんだ、これ?」
ひょい、と一枚手に取ると宛名には「代筆部、黒蜜様」とある。その下のを摘んでみても同じ宛名だった。
「・・・・なんだぁ?!」
綾部が驚いたのも無理はない。
その手紙の束は、全て同じものに見えたからだ。

よくよく見ればその封筒は構内の購買部で売っているもので、違うのはその筆跡くらいだった。
綾部が戸惑った黒蜜を横に勝手に封を開けると、
「代筆をお願いします、」
から始まる手紙が書かれていた。
しかも宛先は「二年B組 窓際前から4番目の席」とそろいも揃っている。
中身はどれも――恋文と呼ぶに相応しいものばかりで、
「なん・・・だぁ?!」
驚愕に呆れを混ぜた綾部が手当たり次第にその手紙をあけると、多少の文章の違いはあってもほぼ同じものだった。
困ったままの黒蜜に理由を聞こうとすると、
「その席・・・」
申し訳なさそうに上目遣いに綾部を見る黒蜜が小さく言った。
「・・・・・僕の席なんです」
「・・・・・・・っ?!」
綾部は今朝の友人のコメントが脳裏に浮かんだ。
(何らかの反応って・・・これかよ?!)
やはり人気の高かった黒蜜の存在を改めて思い知り、この数の恋敵をいったいどうしたものか、と綾部は黒蜜以上に途方に暮れたのだった。


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fin



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