恋愛成就
目が覚めると、そこは見慣れた自分の部屋だった。 「・・・・?」 見慣れた天井。視界を動かすと、自分の机が見える。 あれ?夢だったのかな? 昨日は・・・確か、菊池の部屋で。 思い出して、顔が赤くなってしまった。ベッドの中で走馬灯のように駆けていく昨日の惨状に動悸が激しくなる。布団に包まって顔を隠す。 身体が、だるい。 なんだか腰が、・・・とゆうか、あんまり考えたくないところが、気持ち悪い。 これは、夢じゃなかったのかな。 昨日、僕は菊池としてしまったのだろうか。 途中までは覚えているのだけど、最後のほうは・・・記憶が曖昧だ。いつどうなったのか、よく思い出せない。 思い出せないというより、思い出したくない。 だってすごいことしたような気がする。 「かおるー?」 ドアの向こうから呼ばれて、僕は身体を起こした。 「・・・はぁい」 う、やっぱり身体が痛い。ベッドの上に身体を起こしたけど、座るとなんかへんな感じがする。 返事があったからか、ドアが開いて母親が顔を覗かせた。 「起きたの? 大丈夫?」 「・・・・?」 大丈夫? 昨日、僕はどうしたんだろう? 母親は僕の隣に立って手を額に当てる。 「・・・まだちょっと熱いわね、もう少し寝てなさい。ご飯は? お腹空いてない?」 「お母さん・・・僕、昨日どうしたの」 「覚えてないの?」 どうしてこういう現状になったのかは、全く覚えていない。 頷いた僕に、母親は困った顔をして、 「学校で、貧血起こしたのよ、先生が送ってきてくれたのよ?」 「・・・・先生?」 「えっと、安堂先生。よくお礼を言っておくようにね?」 「安堂先生?」 て、美術講師の? なんで? 菊池と一緒にいたのは、やっぱり夢だったのかな。 熱があるといわれれば、頭がぼうっとしている。 「おかゆを食べて、もう少し寝なさい」 「・・・うん」 よく解らないけれど、身体が疲れているのは確かなようだ。 母親に従って、僕はその通りにすることにした。 次に目が覚めたのは、夕方だった。 何度か瞬いて、また自分の部屋の天井を見る。 「薫?」 聞こえた声は母親のものではない。 首を回して見ると、そこに菊池がいた。 あれ? なんで? これも夢? さっきのが夢? 僕が不思議そうに見ていると、菊池は困ったように苦笑して、 「起きてるか? 大丈夫か・・・? 悪い、無理させたよな」 「・・・?」 どういうことだろう。 「あの・・・先輩?」 「ん?」 「ここ・・・僕の部屋?」 「そうだけど」 「なんで?」 「なんでって・・・・」 「僕、菊池先輩の部屋に、いたと思ったのに・・・」 気がついたら自分の部屋だった。なのに、今は菊池もいる。 菊池は納得したように笑って、 「ああ・・・そうだよな、昨日あの後、お前気ぃ失って、さすがにやばいと思って・・・泊まらせようかとも思ったんだけどな、お前の携帯に親から連絡入ってたし、それで安堂に頼んで、言い訳を」 と菊池はすまなさそうに言った。 そうだったんだ。 だから、安堂がうちに来たんだ。 僕はベッドに横になったまま、その端に座って見下ろしている菊池を見上げて 「・・・・なんだ」 僕はやっぱり、正直寂しかった。 僕の顔に、菊池は苦笑して、 「なにが?」 「・・・だって、目が覚めたら、先輩がいると思ってたのに・・・また居なかった」 拗ねた顔になってしまった。 昨日やっぱり、したのは現実みたいだ。なら、やっぱり一番に菊池の顔を見て起きたかった。 菊池は顔を歪めて、 「お前・・・なんでそういうこと言えるかな・・・っ」 「?」 言っちゃだめだったのかな? 僕は身体を起こすと、菊池も手伝ってくれてベッドに座る。 「身体は? どっか、痛いとことか、ない?」 心配そうに訊いてくる菊池に、僕は首を振った。 別に痛くはない。ただ、だるい。それに、 「なんか・・・変な感じ」 「変?」 「中になんか、まだ入ってる気がする。先輩、本当に昨日入れたんですね」 「・・・・・・・」 「先輩?」 菊池は俯いて、心なしか顔が赤いような気がする。その顔をきっと僕に向けて、真剣に睨んだ。 「・・・入れたよ、もう、おもいっきりさせてもらったけど?! ちゃんとぐちゃぐちゃにさせていただいたけど?!」 覚えてるか、と言われて、僕はちょっとうろたえた。 実は、あんまり現実かどうなのか、境目がわからない。 グチャグチャに・・・なったの? 僕は顔が熱くなった。その顔を覗き込んで、 「痛くないようにしようと思ったけど、お前があまりに可愛いから、途中でがっついた。悪かった。・・・・痛くなかったか?」 ガッツイタ? 僕はそれでも思い出そうとして、首を振る。 痛くは、なかったような気がする。それどころじゃなかった気がする。 「大丈夫・・・でした。やっぱり、あの蜂蜜のせい?」 「・・・・・・・そうかもな」 菊池は何を考えているのか、視線をずらした。 「先輩?」 「・・・・とりあえず、今日はお見舞いに来ただけだから、もう帰ろうかな」 「・・・・もう?」 帰っちゃうの? 「んな顔するな・・・連れて帰りたくなるから。また、明日会えるだろ?」 「・・・・はい」 溜息を吐いた菊池に言われて、僕も頷いた。 菊池は立ち上がる前に、僕の顔に触れて唇を近づけた。 キスをされる、と僕は分かって、なんだか嬉しくて目を閉じた。 「・・・・ん」 やっぱりあったかいキスだった。 唇が離れて、菊池が至近距離で笑う。 「・・・また、するけど、いい?」 キスの、ことじゃないよね?昨日の、みたいなことだよね? 僕は頷いて、 「今度は・・・ちゃんとずっと傍に居てくださいね?」 目が覚めたら、ひとりなんてすごく寂しい。 菊池はすごく苦しそうな顔で、でも決意した、と真剣な顔を見せる。 「・・・・今度は、朝まで眠らせないから」 「はい」 それって、ずっと居てくれるってことだよね? だから僕は素直に頷いた。 菊池は何故か顔を歪めていたけど、もう一度吹っ切るように口付けをしてくれた。 翌日、僕は学校に行ってまず安堂に会った。 複雑そうな顔の安堂に、とりあえずお礼を言ったのだ。お世話になったに違いないから。 それから教室に入って、瀬厨を発見した。 「おはよう、瀬厨くん」 笑って挨拶すると、瀬厨は少し戸惑った顔で、 「お・・・おはよ」 「? どうしたの・・・?」 「ん、ううん・・・昨日、休んだから、どうしたのか、と思って」 「ああ、うん、なんか動けなくって」 「い、五十嵐・・・」 瀬厨は真っ赤な顔で俯いてしまった。どうしたのかな。 「あ、あのね、瀬厨くん、あれ有難う」 「あ、あれって・・・」 「痛くなかった。本当にすごいね、また頂戴?」 笑った僕に、なんだかクラスのざわめきが一瞬引いた。 なに?どうして?視線を浴びているような気がする。 瀬厨はますます赤い顔でなんだか涙目で、 「五十嵐・・・っ頼むから、そうゆうことを・・・っ」 言うな、と睨んだ。なんで? なんだか、セックスしたのかどうなのか、自分でもよく解らなかったけど思ってたより怖くもなかったし、気持ち良いのかどうかも解らないけどでも菊池と居れる。なら、別にいいかな、と僕は深く考えないことにした。 菊池が一緒に居てくれるなら、菊池がしたいことをしよう、と決めたのだ。 「いつか、お前からしたいって言わせるからな・・・」 菊池は疲れたような声で僕に言ったけど、そんなこと、言う日がくるのだろうか・・・? 分からないけど今がとっても楽しいから、いいや。 僕には、何もかもが初めてで楽しいことだらけの毎日だったから。 「次は、朝まで絶対にいて下さいね?」 念を押した僕に、菊池は唸るように俯いてしまった。 どうしたのかな。 それでも、繋いだ手が暖かかったから僕はよしとした。 |
fin