ベッド




やはり、ソファは狭い。
春則は横になりながらも片足が床に落ちていた。繕の部屋にあるソファとは違う。
「繕・・・っ」
好き勝手に身体の上を這う男に非難の声を上げた。
それでしか、すでに抵抗は出来ない。
「頼むから、ベッドに・・・!」
「・・・我侭だな」
「それはあんただろ!」
「そうか?」
「誰が見てもそうだ!どけよ、移動するから・・・」
「ムードがない」
「そんなもの、初めっからあったことなんかないだろ」
「確かにな。移動したら、気が済むまで付き合え」
「・・・・・・疲れたら、寝るぞ」
「駄目だ。今日は寝させないって言っただろう」
「・・・・・」
確かに、そんなことを言っていたような気がする。
春則は上に乗っていた繕を押し返しながら身体を起こした。
それを受け入れるしかない選択に大きく溜息を吐いた。



ベッドの上で重なって、一度吐き出したまま二人で倒れこんだ。
呼吸を整えながら、春則は背中から伝わる体温を感じていた。
後ろから抱きしめて前に回った手は、余韻のように春則の肌を撫でる。
「・・・仙台って、何があったっけ・・・?」
「・・・なに?」
「あ、牛タン?」
ぽつりと言い始めた春則に繕は眉を顰めて、
「それが?」
「ほかに、何があったっけ・・・? うわ、もうそれしか思い浮かばない。てか、牛タン食いてぇ・・・」
「お前な・・・」
繕はベッドに肘を付いて身体を起こした。
「この状況で食い物の話か?」
「どこだろうと、食いたいもんは食いたいだろ」
振り返って睨み付けると、憮然とした視線とぶつかる。
「お前は俺を食ってろ」
「・・・っ」
まだ中にいた繕が腰を揺らす。春則は震える身体を堪えるようにシーツを掴み、
「ま・・・、ちょ、う、ごくな・・・! 抜け!」
「聞けるはずがないだろう」
「ぜ、ん・・・っあ、や、ま・・・っ」
勢いのままに中に吐き出した残滓が、そのまま動いた繕自身によって溢れ出す。
身体の奥から感じるそれと、耳に届く濡れた音。
春則は染める頬をベッドに押し付けて、それを耐えた。
その春則を笑うように繕は大きく注挿を繰り返す。
「繕、あ、まて・・・って!」
「待たない」
「早、い・・・っ」
抗議しながらも、春則の身体は繕に簡単に高められてゆく。
「あ・・・あぁっ」
くいしばるように歯を噛み締めていたのに、繕の手がほどよく筋肉の付いた胸を弄り、尖ったそこに触れる。
全身から力が抜けるように震えが走った。
「・・・いい声」
ぼそりと耳元に囁かれて、春則は呼吸を整えるように微かに息をしながら肩越しに振り返り、睨み付ける。
いつも余計なことを言わない口は、このときだけは春則を羞恥に追いやる。
後ろから腰を抱えていた繕はふいに身体を離した。
「・・・んっ」
ずるりと抜ける感触すら、春則は震えるように耐える。
これからだというのに引き抜いた繕を一息おいて振り返ろうとすると、ベッドから身体を引き剥がされるように起こされた。
「なに・・・っ」
仰向けにもう一度ベッドに押し付けられて、片足を抱え上げられる。
「繕・・・っ!」
眉を顰めて顔を背ける。この体勢は春則が一番嫌いな体位だ。
理由はもちろん、顔が見られるからだ。
あられもなく声を上げて、身体全体で感じてしまっているのを隠しきれないような気がするのだ。
もちろん、隠しきれるものではない。
それでも顔を見られると必要以上に羞恥に襲われる。
「・・・見せろ」
解かっているのか、繕は口端を上げてそのまま身体を重ねた。
「ん・・・っ」
憎たらしく思いながらも、春則はやはり抵抗しきれない。
すでに力が出ないこともあるが、求められることに拒むことが出来ない。
身体だけなら、こんなにも簡単だ。
求められることに安堵する。
これが永遠に続けばいい。
世界に二人きりで、怖いものなんてない。
ここで終わっても、今なら後悔しない。
明日なんて、来なければいい。
果てへと登り詰めながら、春則は思考を止めた。
決定は、やはり覆らないのだ。


to be continued...



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