| 犯罪者の年齢 3 辰彦は深津と弥衛をベッドルームへ残し、リビングに帰ってきたときは疲れたように溜息を吐いて見せた。 それに航太郎は目を瞬かせて、 「どうした?」 さっきまでは楽しく笑っていた男の変化に首を傾げた。 「先輩、ちょっと、先輩に今度は訊きたいんですけど」 「・・・なんだよ?」 場所をその小さいと言ったソファと、辰彦は床に座り込みまた新しく缶ビールのプルトップを開けた。 「ぶっちゃけた話しますけど」 「うん?」 二人で喉をもう一度潤しつつ、辰彦は視線を上げる。 「先輩、最初の時どうしました?」 「・・・最初って、アレの?」 「それ以外の最初を聞いてどうするんです」 「・・・・・・」 航太郎は質問に驚きながらも動揺することはなく、しかし少し黙り込んだ。 「先輩?」 「・・・うーん、教えたくない」 きっぱりとした航太郎に辰彦は珍しく情けない顔を見せて、 「先輩・・・っ頼みますよ、俺すげぇ今ヤバイんですよ!」 「・・・ヤリたくてってことか」 「30で精力が落ちたように見えますか、俺の?」 「あー、近づきたくねぇほど、ガッついてるように見える・・・」 「それは先輩も同様です」 「相変わらず失礼なヤツだな、お前も・・・」 「失礼だろうと、先輩以外に聞く相手がいないんですから仕方ないでしょう」 顔を顰めてみても、深津と同じ分だけ付き合いのある後輩にはあまり効果はないらしい。 航太郎はまた少し考えて、 「可愛かった」 一言に、辰彦は頭を抱える勢いで、 「だから・・・! そんなこと聞いても仕方ないでしょう! 深津が可愛いのは知ってますよ!」 「あ、お前いまさらそんなこと――やっぱ危ねぇな、これから深津に会うのは――」 「ああもう、そうじゃなくて、頼みますよ、もう」 「解かってるけどな」 からかっただけだ、と航太郎は缶の中身を飲み干し、 「つまり――ヤリたいんだよな、今日?」 すでにぐったりとなってしまった少年を思い出し航太郎が確認すると、 「あれくらいなら、すぐに気付きますよ。それに、シラフよりいいかと思って・・・」 言い訳を口にした辰彦に、意地の悪い笑みを浮かべて、 「この確信犯が、悪い大人だよなぁ」 「仕方ないでしょう、子供みたいに、当たって砕けられるほど元気はないですよ」 もう後がないのは大人のほうなのだ、と辰彦は溜息を吐いて自分も手の中にあるアルコールを飲んだ。 ズルイと言われても、卑怯だと思われても、石橋を叩いて固めて周囲に逃げ場をなくして安心したいのだ。 それは年齢を重ねるごとに大きくなる不安のせいだった。 辰彦の気持ちが解かってしまった航太郎はニヤリと笑いながらも、 「仕方ねぇな、準備してんのか?」 まるで子供の悪戯を仕掛けるように問う。 「してますよ、一応は」 「イかせるのは女をするより簡単だけどな」 「ああ、そうですよね・・・」 造りは自分と同じものなのだ。自分が気持ち良いと思うことをすれば、相手にも伝わる。辰彦は何度か頷いた。 「挿れたことある?」 「・・・女のには、でもその女慣れてましたからね」 どうしても後ろがいい、と言われて辰彦も興味本位でアナルセックスはしたことがあるらしい。 けれど誰とも抱き合ったことのない少年をするのには、やはり抵抗と戸惑いが隠しきれない。 「思いっきり、慣らしてやれよ? もう厭だ止めろって言われても、しつこく解してやらないと――」 「・・・・痛いですか」 「俺は、最初ちょっと挿れただけで動けなかった」 航太郎はその情景を思い出し、今でもあの涙に負けそうになる。 しかし、それに煽られるのも同時だった。 その欲情を抑えるのに若いあの日は必死だった、と振り返る。 「それから、どうしたんです」 答えが解かっていると知りつつも、辰彦は訊いてしまった。 案の定、航太郎は余裕に笑いながら、 「ん? そりゃ思い切り舐めてぐしょぐしょになるまで――」 「航さん!!」 リビングに響いた低く冷たく、硬い声に夢中で話し込んでいた男二人は瞬時に身体を固めた。 凍る勢いで驚いた視線を振り返らせると、そこにいたのは怒りで顔を真っ赤にした深津と――その後ろで赤い顔を俯かせた弥衛だった。 「し、信じられない、なにを話してるんですか・・・っどういう神経しているんです?! 辰彦、お前も・・・っ前に僕に訊いただけじゃ足りないのか?!」 完全に怒りを見せた深津に、航太郎はヤバイ、と固まり辰彦は居心地の悪そうな顔で、 「いや、あれだけじゃちょっと自信が・・・」 「自分ひとりで自信も持てないのなら誰とも付き合う資格なんかない! 独りで帰れ!」 深津は大事なものを守るかのように小さくなってしまっていた少年を抱きかかえた。 それに慌てた二人は酔いもいっぺんに覚めたような顔で慌てて、 「いや、それはちょっと・・・」 「深津、悪かったって、落ち着け!」 「落ち着けない! もうやだ、なん、なんでそんなこと・・・っ」 怒りのままに赤い顔で、自分の言うように落ち着きなどない気持ちは目を潤ませ始める。 しかし腕の中に納まっていた少年が、 「あの、俺は、別に・・・」 大人の中で小さくあげた声に、全員の視線を集める。 それに戸惑いながらも唯一の十代の少年は赤い顔で深津の腕の中から辰彦を見上げて、 「・・・田神さんが、俺のこと、本気で思ってくれてるんなら・・・別に、俺は・・・その、され、ても・・・」 それ以上はさすがに赤い顔からは漏れてはこなかったけれど、何が言いたいのかは誰にもに伝わる。 顔を綻ばせた辰彦に、少し驚いた航太郎。 それから深津は驚愕の目で少年を見下ろし、震える身体で顔を伏せた。 「・・・新人類ってこういうのかな・・・っ」 若い子の気持ちが解からない、と深津は本当に泣きそうになった。 深津はこれ以上にないほど恥ずかしいのに、弥衛は辰彦に手を引かれ、嬉しそうにこの部屋をあとにしたのだった。 それを複雑な顔で見送って、溜息を吐く。 それから思い出したように航太郎を見上げて、睨んだ。 「弥衛くんはああ言っても、僕、許せれませんからね!」 二人きりになった空間でもう一度怒りを向けると、航太郎は正直に済まなさそうな顔をして、 「・・・うーん、悪かった。だけどなぁ」 「だけど?! なんですか!」 「お前も悪い」 あっさりと一緒にされて、深津は目を丸くする。 どう思い直しても、自分が悪いことなど思い当たらないのだ。 「ど、どうしてです?! 僕、なんにもしてない・・・」 「してるだろ」 「なにをですか」 「あんな・・・目で、睨むからさぁ」 「目?」 「ちょっと赤い顔で、潤んだ目で、下から頑張って睨んで・・・あんな顔、俺以外に見せるから、これはもう辰彦には早いトコあの子供とくっついてもらって深津に向かないように、と・・・」 「な・・・・っなに、をっ」 「あーもうホント、だから人前で飲ませるの厭なんだよ、お前・・・なんでそう、色っぽい顔するかな・・・」 「い、いろ・・・っ航さん! それは欲目です!」 「そんなわけねぇだろ、誰が見てもお前は綺麗だ」 「・・・・・っ」 もう深津には何も言うこともできず、ただ俯いて赤い顔を隠してしまう。 「しかもどんなことしたって、お前は今でも初めてみたいにこんなに初々しいし。俺の我慢、そろそろ限界なんですが、深津さん?」 航太郎に引き寄せられ、大人しくその腕の中に納まった深津は赤い顔を胸に押し付けて、 「・・・ソファは小さいから、ベッドに行こうか」 「・・・・・・」 甘い囁きに深津は答えることは出来ず、ただ離れないように航太郎の服を握り締めた。 顔を上げられない深津を良いことに、優しくあやすような声で航太郎は囁きながら、人の悪い笑みを浮かべる。 それは今も昔も、深津が気付くことはない。 今回も誤魔化せた、とほくそ笑む航太郎はすでに思考をベッドの中へと飛ばした。 |
fin.