本当は、とても・・・  前編





――自分で持てよ・・・え? ほら、握って・・・自分のもんだろ? イイトコなんか、自分が一番判るだろ?
・・・擦れよ? ほら、指、使って・・・硬くなってるだろ・・・
え? 嫌じゃない、こっちはそんなこと、言ってない。・・・・溢れそうなのに・・・? そんな目で見るなよ。
我慢、出来なくなるだろ・・・自分でしろよ、足、もっと開け。
手伝ってやろうか? 嫌じゃない・・・後ろ、良いだろ? ん?
手、止まってるぜ・・・ん? なに? ・・・・・イきたいのか?
・・・・イかせて欲しいのか・・・? 言えよ・・・何って、決まってるだろ・・・強請れよ、強請って、誘ってみろよ。

    ・・・・・欲しいんだろ?










「んあああああっ!」
貴弘は起き上がって、心臓が爆発しそうなのがはっきりと解った。
目は見開いているものの、目の前のものを映してはいない。冷や汗は身体中から溢れて、机の上で握り緊められた手は小さく震えている。
肩で大きく息をする。暫くその呼吸が落ち着いてから、目の前の景色が見知った教室だと気付く。
周りの視線が自分に向いていて、一番前の黒板にはあまり好きではない数字の羅列。その意味が解っても、貴弘は大きく息を吐いた。
今度は、安堵の息だ。
「・・・・・夢かぁ―――・・・!」
大きく吐いて、椅子に身体を預ける。
そこでやっと、上からの視線に気付いた。
「・・・藤谷お前・・・良かったな、夢で・・・!」
くたびれたスーツの似合う、数学教師が見下ろしている。
授業中、しかも一番苦手な数学の授業の居眠りに気付いた貴弘は、違う意味で冷や汗を流した。
「・・・・・・・えっと」
視線を俯かせ、苦笑いが顔から離れない。
その顔を凍らせる一言が、教師から発せられた。
「・・・問題集、35から10ページ。次の授業まで」
「・・・・っ」
「・・・教えて貰えばいいだろう、良いセンパイに」
いやみにしか聞こえない台詞は、ますます貴弘を落ち込ませた。





休み時間になって、机に落ち込んだ貴弘をいつものメンバが慰める。
「手伝ってやるから・・・」
心優しい声のあとで、苦笑が続く。
「一体、どんな夢だったんだ?」
「・・・・・・」
すぐに答えられなくて、貴弘は顔を上げれない。
心配そうな顔をするのは、松島だ。
「貴弘? 怖い夢? なら、話したら現実にならないって言うぞ?」
「・・・・・・」
「そうだな、夢って、人に言うと現実にならないって言うなー」
後を続けたのは岡崎だが、貴弘は何も答えれない。
なぜなら見た夢が、すでに現実だったからだ。
――あんな夢・・・っ見るなんかっ! つーか思い出したくもないのに!!
震える拳を握り緊め、紅潮する顔を顰める。
最近、身体がどうも言うことをきかない。いや、自分の身体なのに他人に良い様にされて、その通りに従ってしまうのだ。それが悔しくてならない。
原因の男を思い浮かべて、貴弘は今日こそは、と決意した。 





「ちょ、とまって・・・!」
夏流の部屋に行くとなぜか流れがそのままベッドの上になってしまっている。それはちゃんとベッドの上ならいいのだが、リビングのソファの上だったりその下の床だったり玄関だったりキッチンだったり、した。
いつ夏流にそのスイッチが入るのか貴弘には解らず、ついついその流れに乗せられてそのままなし崩しになってしまう。
初めて肌を合わせてから、夏流にそれを止めようという気は全く見られない。寧ろ、何も知らない貴弘に何もかも、次々と教え込んで自分好みに仕上げていった。
貴弘はそれを吸収してはいるのだが、どうしても羞恥が勝る。
だが一度覚えた快楽は止まらない。
いつもギリギリまで粘って、耐えて、しかし結局は崩れる。
言われるままに誘われるままに、請われて強請られて、最後にはただしがみ付いて泣いてしまう。
セックスを知ったのは、そんなに前のことではない。なのに、身体はすでに抱かれることを快楽を覚えてしまっている。
貴弘はそれを止めたかった。
あんな夢まで見てしまったのだ。
これはもう、やばい状態だ。
なので、ベッドに押し倒されたその身体を両手で止めた。
ひた、と見られて、貴弘は視線を外す。
合わせたら終わりだ、と実感しているのだ。
「・・・なに?」
低く囁かれる声は、いつものトーンよりも遥かに艶を含んで、肩を押し返して上体を起こそうとしている貴弘の決意を揺るがす。
貴弘は目をぎゅっと閉じて首を振った。
理性を取り戻すためだ。
「待って、ちょっと、起きろよ・・・!」
簡単に夏流はそれに従って、身体を起こした。貴弘もベッドに座ってすでに体力を消耗したように手をシーツに付いた。
その隣りで片足を床に落とした格好の夏流は肩で息を整えている貴弘の言葉を待った。
「あの・・・今日は、やめ・・よ?」
「なに?」
「・・・・だからぁ、今日は、したくない・・・って、」
視線を合わさないままの貴弘の言葉は次第に小さくなる。それでも最後まで言った。
「・・・・なにを?」
「なにって・・・、そんなん、」
決まっている。
そして、解らないはずの夏流ではない。貴弘は眉を寄せて視線を上げると、そこには口端を上げて貴弘を面白そうに眺めている夏流がいた。
からかわれていることに気付いた貴弘は真っ赤な顔でそれを睨みつける。
夏流は笑ったままそれを受けて、
「どうして?」
と質問を変えた。
「・・・・・・課題がすげぇ出たから! こんなことやってる暇ない!!」
「課題? なんの?」
「数学!」
「・・・・それは、時間がかかるものか?」
不思議そうな声に貴弘は唸るように夏流を睨みつける。
「・・・悪かったな! 莫迦で!」
「解ってるならいい」
あっさり認められて、ますます怒りを募らせても夏流を覆すことなど出来ないと分かってしまっている貴弘は、震える手をシーツに押し付け言葉を堪える。
そして、怒りをどうにか押し込めて、
「・・・だから、課題する、今日は・・・!」
「ふうん」
「・・・ふうん、てなんだよ」
「するんだな、って思って」
「するよ!」
「お前がしている間、俺はどうすれば?」
「あんたも勉強でもしてれば?」
「俺が?」
「・・・・・なんでも、してろよ」
「なんでも?」
貴弘はその視線に不安を感じて、
「・・・やっぱ、教えて?」
「・・・お前に?」
「うん、ベンキョ」
教室で言われた台詞も思い出して、貴弘は頷いた。
夏流はゆっくりと表情を変えた。
貴弘はその笑顔に、ベッドの上で後ろに下がる。
「・・・俺の家庭教師? 高いぜ?」
「・・・・・・」
やっぱり止めたい、とは口に出来なかった。


to be continued...



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