| よこはいり 航さんは、部下思いだ。 深津はダイニングテーブルにひとり座り、そこから見えるリビングのソファの前に胡坐を掻いて座る航太郎を眺めた。 テーブルの上にあるボトルは、頂き物で自分で買うには少し値段が高いと躊躇するものだった。 一緒に休日に飲もう、と言ってくれていたのに、深津は今それをひとりで空けていた。 アルコールは弱いほうなのだが、口当たりの良いこれは飲みやすく、次々にグラスを傾けてボトルの中身を減らす。 手酌で次ぐボトルが、片手で持っても軽いな、と思ったとき、深津は自分の視線が座っていることに自覚はなかった。 溜息を吐いて、航太郎の背中を見つめた。 せっかくの休日だというのに、航太郎は部下の提出した企画書をいくつもチェックしてさっきから深津は放置されている状態だ。 つまみに置いたクラッカーを食べる気にもなれず、深津はグラスに残った真っ赤な飲み物を飲み干すとゆっくりと立ち上がった。 航太郎の背後に膝を付き、手許を覗き込む。 航太郎は集中しているのか、真後ろにいる深津を気にもしない。 深津は唇を尖らせて、どうにかその視界に入りたい、と考えた。 どうしたら、こっちを見てくれるのだろう。 背中を見て考えて、胡坐を掻いた膝と、書類を持った手の隙間に気付く。 身体を猫のように丸めてその穴を覗き込めば、向こう側に書類が見えた。 深津は発見した自分が天才のように思えて、床に手を付きまるで本当に猫のように頭をそこに入れた。 「み、深津?!」 驚いた航太郎の声に、深津は気付いてもらえて作戦が成功したことに嬉しく、にっこりと笑って顔を航太郎のほうへ向けた。 「どう・・・どうした?! なんだ、いったい・・・」 顔を入れたほうの腕を上げて、深津の上半身が膝の上に来るのをされるままになっていた航太郎が驚愕の顔で深津を見つめる。 「お・・・まえ、あのワイン、どれだけ飲んだ?!」 航太郎はようやく気付いたように、ダイニングテーブルを振り返るけれど、深津は胡坐の上に身体を乗せてその気を引こうとごろり、と身体を転がした。 「深津?」 「休まないんですか?」 「え?」 「せっかくの、お休みなのに・・・いつまでお仕事するんですか?」 「深津・・・」 航太郎の足の上で、身体を捩るようにして寝転がる。 航太郎の目が、どこか据わったものになって深く溜息を吐いた。 「誘ってるようにしか、見えないんだが」 深津はアルコールのせいで上気したままの頬を緩めて笑い、 「誘われてくれますか?」 航太郎の降参、という声と一緒に、その手にあった書類が投げ出された。 深津は強く抱きしめられながら、作戦が成功した、とまた微笑んだ。 |
fin.