| 通り雨 仕事が終わってから、外で食事をする約束をした。 待ち合わせにしたのは、航太郎の職場に近い駅向かいにあるカフェで。 深津はここで航太郎を待つのがとても好きだった。 飲みなれた珈琲を口にしていると、雲行きの怪しくなってきた空の下、航太郎が急ぎ足で来るのが見えた。 思わず、深津は微笑んでいた。 「悪い、待たせた・・・」 カフェに飛び込んで来た航太郎を待っていた様に、勢いよく夕立のような雨が降り始める。 航太郎は一度外を振り返り、そして深津に向き直り、 「間一髪」 笑った。 深津は笑い返したけれど、それは苦笑に近い。 その姿はとても人目を惹くと思う。 存在感のある、華やかは雰囲気。 薄暗くなっていた店内が、一気に明るくなった気がした。 周囲の視線を一気に浴びているのを気付いているのか気にしないのか、航太郎は真っ直ぐ密の席へやって来て、 「待つ?」 航太郎は傘を持っていない。 深津も然り、だ。 外は通り雨にしか見えなかったので、暫く過ぎるのを待つことにした。 深津が頷くと、航太郎も店員を呼んで珈琲を注文する。 少し雨の音を聞いていた二人だが、先に航太郎が笑った。 「航さん?」 深津が隣を覗き込むと、航太郎はまるで子供が秘密を教えるように、 「雨宿り」 その一言に、深津も笑みを深めた。 同じ記憶を共有する喜びが、何よりも嬉しい。 まだ幼い学生の頃、緊張をしていたデートで通り雨に出会った。 慌てて店の軒下に駆け込んで、いつもより近い場所で、触れ合った指先をどちらともなく絡めた。 「航さん、止みそうですよ」 外に視線を向けると、その通り雨のような空が駆け抜けて行きそうだった。 テーブルの下にあった手が、人目を盗むように絡む。 「――もう少し、降っててもいいのにな」 航太郎の呟きに、深津はただ頷いて指に力を込めた。 |
fin.