| 温泉希望 密着させていた身体を離し、呼吸を落ち着ける。 深津は濡れてしまった、と思いながら意識をぼんやりとさせて汗ばんだ額に口付けて起き上がった航太郎を目で追った。 一日に一箱も吸わない煙草を取り出して、ぼんやりとした橙色の明かりの中それに火をつける仕草を見つめて、そういえば、と思い出す。 「・・・久世さんが、今度・・・」 「え?」 掠れた声で、ベッドにぐったりとしたまま深津が発した名前に、航太郎は少し驚きを見せて視線を下げる。 まだ憂いを込めた目で見上げられて身体が――特に下腹部が痛くなるのを抑えながら、 「久世?」 「そうです、また旅行したいって言っていたのを思い出して・・・どこがいいか選んでもいいって言われたので」 久世は航太郎の同級生で、その奥さんとも隠し事もない友人だった。 専業主婦の奥さんを喜ばせるために、久世という男はよく旅行の話を持ちかける。 深津と彼女が、とても仲が良いのだ。 深津はぼんやりとした思考をそのまま巡らせて、 「・・・どこがいいかなぁって、ずっと考えてて・・・今なら温泉ですけど、やっぱり雪があったほうがいいかなぁとか・・・航さんは、どこがいいですか?」 「・・・別にどこでもいいけど」 お前がいれば、と航太郎は吸いかけの煙草を灰皿に押し付けて、 「・・・で、聞きたいんだが?」 「・・・はい?」 寝転んだままの深津の両側に手を付いて覆いかぶさった航太郎を、その不穏さを見せる視線に、どこか不安を感じながらも首を傾げた。 航太郎はその気配を消すかのようににっこりと笑って、 「お前、それさっき考えてたのか? 最中に?」 「・・・・・えっ?!」 「俺は夢中だったんだが、お前はそんなことを考えていたわけだ?」 「え・・・っえっ、ち、ちが・・・っ」 表面上はとてもにこやかな笑顔で徐々に近づいてくる航太郎に、深津は云わんとしていることが分かって慌てて首を左右に振る。 「そんなにつまらなかったか? そんなこと考えながら出来るなんて、お前は余裕だな」 「ちが・・・っちが、います! 航さん! 僕は・・・っ」 「夢中にさせてやるよ、もう一回?」 「ご、ごめんなさい、航さん、そんなつもりじゃ・・・っ」 「じゃあどんなつもりだったのか――じっくり教えてもらおうかな」 「・・・・・・っ」 まだ火照った身体を押し付けられて、深津は声を失くす。 「温泉、貸しきり風呂が付いているところがいいな」 熱い吐息で囁かれても、もう深津は何も答えられなかった。 |
fin.