| 蜜月 「おかえりなさい、航太郎さん・・・」 「・・・ただいま、深津?」 先に帰っては居たけれど、今日は時間差だったので深津も今帰宅したところだ。 一度入ったリビングから玄関に航太郎を出迎えた。 いつものスーツ姿だけれど、深津は今日は特にそれがドキドキして見えてしまう。 その理由は解っている。 今日の閉店間際に来た辰彦と弥衛のせいだ。 ――あんなこと、思い出させるからっ 友人とその幼い恋人を心の中で怒って、それでも航太郎を前にするとドキドキするのが抑えられない。 玄関に上がった航太郎はそんな深津に目敏く気付き、 「どうした?」 「な、なにが、です・・・?」 「いや、航太郎さん、なんて呼ぶから」 深津が航太郎先輩、から航太郎さん、さらに航さん、と略して呼ぶようになって久しい。 深津の表情を見れば怒っているようではなく、どこか照れてしまっているのが解る。 航太郎の指摘に、深津は自分が発した言葉を理解してますます顔を染めた。 「・・・っい、いえ、別に・・・っ」 「・・・ふぅん?」 慌てて首を振る深津に、航太郎は敢えて深くまで追求はせず、自分も今日のことを思い出しどこか力の入る腕を思い出した。 「――ハネムーンパラリシス」 「え?」 「って、言うんだってさ」 「・・・な、なにが、ですか?」 航太郎は目尻が下がるのを自覚しながら、目を瞬かせた深津に笑った。 「朝、腕が痺れてただろ?」 「ああ・・・はい、大丈夫でしたか?」 「うん、今までも、時々あったんだけど・・・腕枕が原因なんだって」 「・・・・・・・・」 「まぁ酷く痛むわけじゃないし、毎日痺れてても俺はいいんだけど」 「こ・・・っ航さん!」 「思い出したから」 その言葉通り、航太郎は記憶を探ったのか深く笑った。 いきなりの航太郎の話題に顔を赤くしながら諌めようとした深津も、それに興味を引かれて首を傾げる。 「何をですか?」 航太郎はそれに意味深に口端を上げて、 「初めて、腕が痺れた日のこと」 「―――――」 「あの時はなんとも思わなかったけど、考えれば原因はひとつだったよな」 「こ・・・っこ、航、さん・・・っ」 「あの日、初めてお前が朝まで俺の腕の中にいた」 真っ赤になった深津も、その記憶を思い出したに違いない。 航太郎はその微かに震える身体を抱き寄せて、日々愛しくなるのを実感した。 「同居を了承してくれた深津が、すごく嬉しかった」 「・・・・航、さん、あのときの・・・」 「プロポーズみたいだったけど、間違ってないよな?」 「・・・・・・・やっぱり、そのつもりだったんですね・・・っ」 深津は今も忘れられない言葉がある。 思い出すたびに、動悸が激しくなってしまう。 真っ赤になった顔を航太郎の肩に押し付けて、諦めたように溜息を吐いた。 「それ以外で言うつもりはないけど・・・もう一度言おうか?」 「い・・・っいいです! そんな・・・っ」 「聴きたくない?」 「わ・・・っ忘れられませんから!!」 一度で充分だ、と深津は首を振るけれど、航太郎は愛しい身体を抱きしめて、 「・・・ベッドに行きたくなるな」 「航さん・・・っ」 「お願い、深津。もう一度、言わせて。もう一度、答えて」 「・・・・・お、おんなじ、答え、なのに・・・っ」 「もう一回、聴きたい」 お願い、と言う航太郎に深津が逆らえるはずがないのは、誰より航太郎が知っている。 けれど甘く強請ると、誰より深津が優しく答えてくれるのも知っていた。 そのままベッドに倒れ込んで、航太郎が囁いた声に、深津はあの時と変わらない歓喜の震えの中で、 ――やっぱり、誰にも言えない・・・っ そう改めて決心して、深く頷いて航太郎の重さを受け止めたのだった。 |
fin.