| ラブビデオ 「深津先生〜、聞いてください、ひどいんですよー!」 仕事先の美容院はオフィス街にあって、客の来る時間というのがおおかた決まってしまっている。 おかげで、休憩の時間も毎日同じに取れた。 昼を回って客足がなくなったとき、今日もお茶にしようか、と深津が言って休憩となる。 その時、助手として働いている前野海―まえのうみ―はミルクティを手に持って可愛らしい顔を顰めて見せた。 さっきまで普通の笑顔だったのに、と深津は面白いな、と思いながらもいつものように笑った。 「うん、どうしたの?」 「あのね! キョウくんが」 キョウくん、とは海の彼氏で、付き合ってすでに一年が経過し何度かこの店にも顔を見せたことがある。 深津はナンパな外見のわりに礼儀正しかったのを思い出し、海の続きを聞いた。 「私のこと信じられないって言うのー!」 「え? なんで?」 深津にはその理由がまったく思い浮かばない。海から聞かされる話は、いつもノロケたっぷりのそれだったからだ。 「あのね、この間DVD買ったんです。それを見たの、バレちゃって・・・そしたら、そんなの見るの信じられねぇって、気持ち悪いって・・・!」 「・・・え? 海ちゃん、なんのDVD見たの?」 「ゲイのAVです」 「・・・・・・・・なに?」 深津は一瞬、聞き間違いかと形の良い眉を顰めた。 しかし、海はなんともあっさりと、 「男同士の、エロビデオ」 深津はそれを理解するのに時間をかけた。 目の前に座るのは、結構長い付き合いにあるのに今だ外見が幼さを残す少女のような女の子で、格好だってそれにあった可愛らしいものだ。 しかしその口からあっさりと流れ出る言葉に、深津は付いていけない、とクラクラした。 「マンガとかは読むのいいってゆってくれるし、アニメなら今までなんにも言ったことないし・・・私だって、今まで実写は見たことなかったから、ちょっとした好奇心だったのに」 「う、海ちゃん・・・・っま、マンガって、アニメって、その・・・っ」 「え? BLのですよー?」 「・・・びーえる・・・」 「ボーイズラブ」 そう言った笑顔の海から、ハートマークが飛んでいた。 もちろん、深津は自分の大事な恋人のことを海に言ったことがある。 とてもいい子なので、隠し事をするのが厭だったからなのだが、意外にもすんなりと受け入れられた・・・と、言うより、かなり嬉しそうに受け入れられた。 その理由を今、こんな時になって知るとは。 深津は本当に目の前が暗くなった。 「う、海ちゃん、そ、そんな、そんなのね・・・っ」 「ええ? だって、興味ないですかー? 深津先生だって、してるわけでしょ、セックス。でも深津先生のしてるの見るわけにもいかないし・・・純粋な、興味ですー」 「し、してるって・・・っ」 「キョウくんだってAV見るくせに、私そうゆうの基本的には嫌いなんですよー」 続けた海に、深津はもうなにも言えなかった。 「今時の子って、そういうもんなのかなぁ・・・」 八時を回って帰ってきた航太郎と、遅めの夕食を前に深津はぼんやりした視界でポツリ、と呟いた。 今日は一日、そのことが頭から離れず思わず出てしまった。 それに勢い良く食べていた航太郎は、 「なにが?」 視線を向けられた深津は、今日話された内容を思い出し、隠すこともできず顔を染めた。 「・・・・なんだ、深津?」 「う、ううん、あの、なんでも・・・」 「なんでもって顔かよ、話せよ」 強気な航太郎に、深津は勝てたことがない。 このときも、結局赤い顔で言わされてしまった。 「で、でも、昔は、そんなの、なかったし・・・っ僕はそんなの・・・」 「・・・・・・」 言い訳のように続けた深津に、航太郎はなんとも言えない顔で、あえて深津から視線を外した。 それを深津は覗き込み、 「・・・・航さん? どうし・・・・」 視線を合わせない航太郎に、その意味を察した深津は蒼白になって、 「み・・・っ見たことあるんですね?! そんなの!!」 非難するような深津の声に、少し憮然とした航太郎も負けずと、 「仕方ないだろ、お前とするまで俺は男となんかしたこともなかったし、聞いただけの知識だと本当にイイのか心配だったし・・・!」 「だ、だからって・・・っ」 涙目になりながら航太郎を睨みつける深津に、航太郎は開き直ることにした。 「お蔭でお前を傷つけることもなかったし、スキルも上がったと思うけど」 「す・・・っスキルってなんですか!!」 「いつまでたってもお前、こういうことに慣れねぇな、どれだけセックスしてると思ってるんだ?」 「せ・・・っし・・・っ!!」 最早空気を噛むだけの口から声が出ず、真っ赤になる顔を深津はどうにかしたくて俯かせるのに、航太郎はニヤリと人の悪い笑みを浮かべた声で、 「後で披露してやるよ、初めてヤッた時よりは、巧くなってるセックス」 「・・・・・・っ!!」 真っ赤な顔で首を振り否定するしか出来ない深津はしかし、きっとそれを受け入れるのだろう、と自分にも諦めたのだった。 |
fin.