| 感情論 「今日も西嶋さま、怒ってましたねー」 客を見送って、海が疲れたように溜息を吐いた。 深津は言われて、そうだね、と頷く。 「よくあんなに怒って疲れないですよね、」 その西嶋さま、という女性は毎回この店に来ては、愚痴のような言葉を連ねいつも何かに対して怒っていた。 今日は今世間の話題になる政治のことまで怒りを隠せない、と言い募っていて、その相槌を打つのも海には大変そうだった。 深津は思い出して、 「あれが西嶋さまの普通なんだと思うよ・・・」 「深津先生は、平気なんですかー? 怒りっぽい人ー」 言われて、深津はそういえば、と改めて考える。 「うーん・・・平気かも。寧ろ、泣き続ける人のほうが苦手だなぁ」 「泣き続ける?」 海ははっきりと表情を歪める。 そんな人がいるのか、と言うのを顔中で表していた。 深津は苦笑しつつ、 「うん、後ろ向きっていうか・・・泣いて自分を、誰かを責めるような人、たまにいるね」 「うわあー、私、そういうの、無理!」 付き合えない、とはっきり拒絶する海に、深津は頷いて、 「そんな人もいるってことだよ・・・まぁ、お客様だから」 いろんな人がいる、と締めくくる。 客商売において、サービスは誰にも差がつけれるものではないのだが、海はそれでも指折り客の名前を挙げて、 「あの人は好きですーいっつもお土産くれるし、でもあの人は実は苦手でー」 正直な海に、深津は強いな、と感じた。 実のところ、自分の気持ちを正直に口に出せる人こそ強いのだ、と思うのだ。 つい、自分の感情を抑えてしまいがちな深津には、海のこの素直さも眩しく感じてしまう時がある。 そんなところも好きだな、と思いつつ、自分の中で一番好きな人を思い浮かべる。 ――笑ってるひと、かな。 いつでも、笑える人は強いと思う。 そんな人が好きだ、と思いながらも脳裏に浮かぶのは特定の笑顔になってしまう。 その想いが通じたのか、カラリとドアベルが鳴って入って来たのは、心の中を埋めていた恋人だった。 「航さん!」 「お疲れ、深津」 疲れも何も吹き飛ばしてくれる笑顔でそう言われて、深津は吃驚しながらも嬉しさを隠し切れない。 家に帰ったら会えるというのに、突然の訪問が嬉しくてならないのだ。 「どうしたんですか? 仕事は――」 「うん、予定がキャンセルになって、今日はもう直帰」 帰る、と言いながら来た場所は深津のもとだ。 それが当然なことだ、とする航太郎に、深津はなんの疑問も持たず受け入れた。 航太郎の笑顔を見れば、深津は何も怖いことはないと思う。 「深津の笑顔見ると、疲れが飛ぶな」 穏やかな笑顔のまま呟かれて、深津は気持ちが通じたのか、同じ想いをしていることにますます目が細くなる。 毎日見ても飽きることなどない。 見れば見るほど心が奪われる。 長年付き合っている恋人を、未だそんな風に思い浮かべてドキドキしてしまう自分に恥ずかしくなりつつも微笑んでしまうのを、実は横から呆れた顔で海が見つめているのに深津も航太郎も気付かないままだった。 |
fin.