| 膝枕 その祝日は休日だった。 深津はもちろん、航太郎も前日までの九連勤のお蔭で休みを貰えたのだ。 「航さん、お昼・・・・」 深津は言いかけて声を止めた。 リビングのソファで本を読んでいたはずだが、そのままコトリと落ちたように眠っている航太郎が居た。 本の間に指を挟んだまま脇に置かれている。疲れているのだろう。 首を傾けたまま、切れ長の目を伏せている。 深津は下からその顔を覗き込み、穏やかな寝顔に思わす微笑んだ。 その膝に触れても目を開ける気配はない。 深津は楽しくなって、一度してみたいと思っていたことを実行してみることにして身体を起こした。 空いた隣に少し離れて座り、頭を航太郎の膝に向けて倒す。 硬い足の膝枕に、深津は嬉しくなって起きる気配のない航太郎をいいことに暫くそれを楽しむことにした。 髪を撫でられている。 深津の髪は柔らかい。そして色素が薄い。 祖母似で先祖返りのような外見は一目では純粋な日本人だとは思われない。 実際、深津に流れる外国の血は限りなく薄く、日本から出たこともないのだ。 それが、深津は嫌いだった。 周囲と同じでないことが、人目を引きすぎるこの顔が嫌いだった。 けれど航太郎が好きだと言うから。 どれも深津の一部で、何もかもが愛しいと笑うから。 深津は自分があまり嫌いではなくなったのだ。 航太郎が、その深津の髪に指を絡めて撫でゆくそれが堪らなく好きだった。 その気持ちよさに目を閉じてうっとりと身を任せてしまう。 今が、まさにそれだ。 気持ち良い。 目を閉じたまま意識を朦朧とさせていたけれど、何故そうされているのか思い出せず、目を閉じたまま眉を寄せた。 大きな手が、ずっと遊ぶように深津の髪を撫でている。 深津はパチッと目を開けて、現実を思い出した。 「・・・っあ!」 がばっと勢い良く身体を起こす。 「深津?」 今まで撫でていただろう手を上げて、航太郎が不思議そうな顔をして深津を見ていた。 深津はすぐに顔を染めて、見ていられない、と俯く。 「す、すみません、僕、寝ちゃって・・・っ」 少し横になるだけのつもりだったのだが、いつのまにか眠りに落ちていたらしい。 航太郎はその焦った顔に笑って、 「別に良かったのに」 「でも、ずっと・・・いつから起きてました? 僕のせいで動けなかったんじゃ・・・」 「大丈夫、そんなに長くじゃない・・・お前、疲れてるんだろ? もう少ししてやるから寝ろよ」 優しい提案に深津は勢い良く首を横に振った。 出来るはずがない。 恥ずかしくて赤い顔がどうにかなりそうだった。 「いえ、もう・・・っ」 「昨日、あれだけ泣かせてやったのに、朝早くから起きてるからだ。もっとゆっくりすればいいのに」 せっかくの休日なんだから、と続けた航太郎に、 「な・・・っ」 確かに、身体はだるさを拭いきれない。 けれどそれは幸せな倦怠感で、深津は苦にもならなかったのだ。 未だに、夜のことは深津にとって明け透けに言えるものではない。 いや、年を重ねるに連れて、ますます羞恥を増した。 いつまでも航太郎を欲しいと強請り、きっと聞くに堪えない声を上げている。 何もかもを曝け出せる子供でなくなったというのに、いつも暴かれてしまって深津は出来れば思い出したくないことだった。 真っ赤な顔で俯くと、その深津が面白い、と声を殺して笑う航太郎がいる。 からかっているのだ。 唇を噛み締めて深津は耐えた。 いつもいつもこの調子でやり込められてしまっている。 深津は拗ねたように航太郎を睨みつけ、たまには、と思いついたことを口にした。 「航さんが・・・」 「なに?」 潤んだ目で睨みつけ、尖らせた唇を薄く開いて見せる。 「航さんが、足りないから・・・」 「・・・・・・・っ」 驚愕に目を見開き、身体を固まらせた航太郎を見て、航太郎の真剣な視線が自分から外されなくなったのを見て、深津は思わず声を抑えて吹き出した。 「・・・・深津っ!」 「・・・っく、ふふ、すみませ・・・っ」 「お前な」 珍しく顔に赤みをつけた航太郎は、肩を震わせて笑う深津を睨みつけ、そのままソファに押し倒した。 「・・・航さん?」 きょとん、として見上げると、航太郎の目は昼間だと言うのに熱を含んで真剣だ。 「足りないと言ったのはお前だからな、ちゃんと責任取ってもらうぞ」 「あ、え、・・・う、」 深津はそれに何も返すことが出来ず、ただ口を開閉させていたがそれも文句は言わせない、とばかりに塞がれた。 本格的に舌を絡める航太郎に、たまにはこんな休日もいいかな、と深津もその背中に腕を回した。 |
fin.