| 同居人 休日だというのに目を覚ますとベッドに深津の姿はなく、航太郎はゆっくりと起き上がってリビングに向かった。 暖かな日差しが一面の窓から差し込んでいて、一畳半ほどのベランダは日光浴すれば気持ち良いだろうな、と思うほどだ。 しかし航太郎はリビングの壁に凭れ、日差しでなく眩しそうに目を細めた。 その先にあるのは、深津だ。 口許を緩ませて、ベランダの屋根を見上げている。 柔らかな光に包まれる姿を黙って見ていると、深津が漸く航太郎に気付いたのか振り返り、 「航さん、ツバメが」 「ん?」 「今年もまた、来てくれたんです」 ツバメが巣を作ると家が繁栄するとか家業が繁盛する――などという迷信を教えたのは、昔自分だったな、と笑った。 生まれたときからマンション暮らしで、そこは鳩やツバメなど鳥類が来ることも拒んでいるような美しさだけを保っていた場所で、深津は去年、このベランダの屋根の下にツバメが巣を作ったことをとても喜んでいた。 今のマンションはかなり住人の自由を許してくれているので、ある程度のペットまでは可だし、勝手に巣作りする野生の動物まで関知しない。 去年も先に気付いたのは深津で、ある日言い出しにくそうに航太郎に許可を求めていたのもよく覚えていた。 深津が喜ぶことを、航太郎が止めるはずがないのに。 一応ベランダが汚れないように、とダンボールを敷いてやったのは航太郎だけれど、今年はさっそく深津がしたようだった。 「これから卵を産むのかな」 去年の巣をやはり残しておいて良かった、と笑うのは、嘘か本当か解らない迷信を信じていると言うより、ただ毎日その姿を見れることが嬉しい、と言うそれで、航太郎は窓辺に立っていた深津に歩み寄り、 「・・・・・航さん?」 どうしたんですか、と首を傾げるところにキスを落とす。 ただ啄ばむようにしたそれを、深津は大人しく受け入れながら、 「・・・なにか、あったんですか・・・」 航太郎はただ笑って、 「したくなった」 窓のサッシに手を置いて顔を屈めた。 「もう一回?」 「・・・・・ん、」 暖かい日差しと、聴こえてくるのはツガイの鳥の鳴き声。 もう少し、邪魔をするなよ、と航太郎は今年の同居人たちに願った。 |
fin.