| アイロン 冬場だけれど、航太郎の仕事に寒暖は関係ないらしい。 営業企画の部署だけれど、現場に人が足りなければあっさりと借り出されて行ってしまう。 そうなると休日はほとんど潰れるのが航太郎の職場だった。 今日も朝から呼び出されて、しかし一日のんびりするはずだった航太郎は珍しく不機嫌なまま仕事へと出て行った。 日曜日は深津も休みだ。 航太郎とゴロゴロと過ごそうとした一日を、掃除に変えた。 いい天気だったので、布団もついでに干す。 冬の日の晴れは、夏の日のそれよりも暖かく感じるのは何故だろう。 洗濯物を片付けている午後、溜まった航太郎のYシャツにアイロンを当てることにした。 毎日ラフな普段着で仕事をする深津と違って、航太郎は制服のようにスーツを着る。 手に取ったのは淡いグリーンのシャツだ。 去年の誕生日に、似合いそうだなぁ、と思って深津があげたものだった。 気に入ってくれているのか季節を問わず着てくれる。 それにやはり、似合っていた。 航太郎は糊付けされたものが好きではないので、スチームだけを使って皺を取る。 綺麗になったシャツを広げて、 「・・・・大きいな、」 深津は目を細めた。 自分をいつも腕の中に簡単に納めてしまう航太郎の身体を思い出して、一人で頬を染める。 身体に当てるだけではなく、ちょっと、と思いついてシャツに袖を通す。 Tシャツの上から着ても、余裕があった。 腕に余る袖に、思わず微笑む。 ピン、と自分の精一杯のところまで腕を伸ばしてみるけれど、やはり大きい、と思った。 そのまま視界の先に気付いて視線をあげると、リビングの入り口に航太郎が立っていた。 「航さん!」 時計を確認するとまだ三時を回ったところ。 披露宴の現場に借り出されていったとしては、早い帰宅だ。 驚きながらも、それでも嬉しくなって笑ってしまう。 「どうしたんですか? 早かったですね?」 幻なのかな、と思うけれど確かに航太郎は帰ってきていた。 まっすぐに深津を見下ろして、 「朝一の一件だけだったからな。片付けも任せてきた。それより、」 航太郎の視線はどこか冷めていて、深津はどうしたんだろう、と首を傾げる。 それでもその視線は深津から一秒も離れることはない。 「・・・それは、誘ってんのか?」 「え? ・・・・っあ!!」 言われて、深津は自分の格好を思い出す。 航太郎のシャツを着ていたのだ。 「ち・・・っちが、これは、その、い、意味はなくて・・・っ」 真っ赤になって必死で言い訳を考えるけれど、まともな言葉も出てこない。 理由はなく、ただしてみたかっただけなのだ。 慌てて脱ぎかけたその手を、素早く近づいた航太郎の手が止める。 「俺が、脱がしてやるよ」 「航さん・・・っ」 床に広がっていた洗濯物の上に、あっさりと深津の身体を押し倒す。 背中に不安な布を感じた深津が慌てて、 「せ、洗濯物、が・・・っ」 せめて違う場所で、と頼んでも却下と微笑まれる。 深津は、この笑顔に本当に弱い。 「また、洗えばいい、」 汚してしまう、と恥らいながらも、深津が逆らえることはないのだった。 脱がしてやる、と言ったはずのシャツは、最後まで深津の身体に絡んでいた。 |
fin.